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5


「新田さんはどうして神社に居たんだと思う?」

 

 問われた私はとりあえず思いついた考えを口にする。


「神社に用事があったから?」


「どんな用事?」


「うーん、お参り?」


 私と香本さんの問答にみんなは大人しく聞き入っている。


「五村の神社全て周る程のお参りって、何だろう?」


「それは解らない。情報が少なすぎるし。何かの願掛けかな?」


「だよね。じゃあ、鳴黒神社で里田さんたちを睨んだのはどうして?」


「見られたくなかったから。しかも五か所の神社全てで自分を見られていたから」


「どうして見られたくなかったの?」


「内緒のお願い事をしていたから? それか人に見られると都合が悪いから」


 真剣な香本さんの眼差しが揺れて、私もその意味を悟った。


 神社で人目を避けてお願いするもの。

 彼女は五村の神社を下見していたに違いない。

 その下見を里田さんと三木元さんに見られてしまった。

 万が一、願掛けしたことが成就して、自分がそこにいたと二人が証言してしまうと、自分に『とある』疑いが掛けられる。

 まったく馬鹿げた疑いだけど、疑いではなく本当にそれを実行して成就させたのであれば事実であり、疑いを掛けられること自体避けたかったはずだ。


 でも、今夜こうして被害があったということは、彼女は始めてしまったのだ。


「でもさ、よく言うじゃないの。草木も眠る丑三つ時って。私たちが倒れたのって普通に夜だよ?」


「予行練習したんじゃないかな?」


 予行練習であの効果だったら、本格的に始まったら本当に呪い殺されてもおかしくないような気がする。


「おーい。うちら全然話が見えないんだけど」


 那奈が私たちの会話が途切れたところで挙手をする。

 でも見えていないのは那奈だけだったようで、亜由美ちゃんは青ざめているし、二人組は何かをスマホで検索している。

 香本さんは私を窺い、視線で同じことを考えていることを確認すると、口を開いた。


「呪いの藁人形。丑の刻参り」


「……マジで?」


 那奈は片眉をピクリとさせて口元を歪める。

 このご時世にマジかという感じである。


「藁人形ってあれじゃん? 五寸釘刺すやつ。人に見られちゃ駄目ってやつ」


「そう、それそれ」


 やっとこの場の全員が知ったところで、香本さんはごろりと仰向けになって両手を天井に伸ばす。

 そして釘を打ちこむ仕草をし始める。


「真夜中丑の刻。人気のない神社の御神木に呪いたい相手の依代を打ち付ける。それを七日間。最終日、それが終わって振り向くと黒い牛がね、横たわってる。その黒牛を跨げば呪いは成就する。もしその黒牛を見て恐れを抱いたら失敗。ついでに誰かに見られても失敗。呪いは全部自分に返る」


 香本さんの右手が見えない藁人形の心臓部に深く五寸釘を差し込んで動きを止めた。


「今夜被害を受けたのは五人。でもそれって多すぎない? 一気に五人も同時に藁人形用意してたってこと?」


 宙に浮かべた手をそのままに香本さんは私を見た。


 五体人形を用意していたとして、同時に釘を打ちこんだ訳ではない。

 一人一人、間をあけて倒れた。

 玉彦が祓うたびに、次々と。

 きっと本命は一体。残りの四体は予備に持っていたものだろう。

 玉彦が祓って無効化していく度に予備を使って、使い切ってしまった。

 だから今夜は五人で終わったのだ。

 明日の夜はもっと準備してくるだろう。


 澄彦さんと玉彦はどこまで関知して知っているのか。

 私たちが新田さんに辿り着いたのは偶然で、しかもそれが本当に彼女の仕業なのか確定はしていない。

 里田さんと三木元さんに神社の下見を見られた時点で、彼女は五村の神社を呪いの場とすることを諦めたはずだ。

 そうなるとこの五村内には神社はないと香本さんがいう。

 だとするとわざわざ五村を出て他の土地の神社で行ったのだろうか。

 正武家の関知が及ぶのは五村内。

 呪いを祓うことは出来ても止めることが出来ない。

 そして次に誰が狙われているのか、再び同じ人間が狙われるのか……。


 そこまで考えて、ずーんと気持ちが沈んだ。

 明日もあの痛みに襲われるかもしれないのかと思えば、気分が滅入るというものだ。


 その時、ちりりと青紐の鈴が私を呼ぶ。


「あっ。ちょっとお水飲んでくる!」


 私は考え込む五人を置いて、廊下に出ると襖を後ろ手で閉める。

 そして男子が休む部屋に行こうとして足を止めた。

 玉彦がパジャマ姿の私を男子がいる部屋に呼ぶとは到底思えない。

 だったら、と思い直して彼の部屋へ向かうとやはりそこに玉彦が待っていた。

 白いお役目用の着物のまま腕組みをしていたけれど、両手を広げたのでその中に飛び込んだ。


「体調は変わりなさそうだな。他の者はどうだ」


「大丈夫だよ」


「……明日からせっかく二日間の休みだというのに邪魔者どもがいるせいで、比和子と夜を共に出来ぬ」


「……あんた、こんな時なのに欲望に忠実ね」


 呆れて胸に埋めていた顔を上げれば、玉彦はムッとしている。

 そんな顔されても仕方ないじゃないの。

 ただの打ち上げだけで終われば良かったけど、結局は正武家絡みの事案がこうしてみんなを呼び寄せてしまったんだから。



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