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結局それから二時間ほどみんなで楽しんで、零時過ぎに打ち上げはお開きとなった。
亜由美ちゃんも三人のあと直ぐに合流をして、今は女子部屋で一緒に居る。
話を聞けば私が倒れたあと、やはり亜由美ちゃんも台所で痛みに襲われて澄彦さんに祓われたそうである。
「これってさ、新田の仕業だと思う」
電気を消してお布団に入った私たちは、スタンドライトだけを付けてその明かりの周りに寝転びながら集まっていた。
そして那奈が無責任なことを口にする。
「比和子とその周りの人間を狙ったんだよ」
「まさか。だって新田さんにそんな力ないでしょ。それに私の周りって、玉彦とか何ともなかったじゃん」
「だって玉様、正武家様じゃん。流石に正武家様には勝てないんじゃないの?」
「じゃあ豹馬くんと、須藤くんは?」
「アイツらはほら、稀人様だから」
「うーん……」
「うちも新田さんの仕業だと思うんよ……」
大人しく話を聞いていた亜由美ちゃんがおずおずと話し出す。
私たちが大広間で集まっていた時、亜由美ちゃんは台所で倒れて休んでいたんだけど、そこへ玉彦と須藤くんが現れて、澄彦さんや南天さんたちの会話を黙って聞いていたらい。
「誰かが『しゅ』を飛ばしたって澄彦様が仰ってたんよ。『しゅ』って呪いだと思うんよ」
「「あっ!」」
亜由美ちゃんがそう教えてくれたのと同時に腐女子組が揃って声を上げて起き上がり電気を付けて、自分たちのカバンをガサゴソとしだしたかと思ったら、A4のスケッチブックを取り出した。
今回彼女たちが打ち上げに参加した理由、それは最近手掛けている同人誌というものの設定資料を作るためでもあった。と先ほどお風呂場で聞いた。
何でも和風の物語らしく、立派な日本家屋を実際に見てデジカメで撮影したかったけれど、お屋敷内は基本的に撮影禁止なのでお得意のスケッチになったようである。
ついでに何故か着物姿の澄彦さんや南天さんもスケッチしていたけど、深くは触れないでおこうと思う。
私たちの前にそれを広げて、ページを捲る。
スケッチブックには五村の景色が水彩画で描かれていて、その上手さに溜息が零れた。
この二人ってデザインの才能もあるけれど、美術全般に明るいんだと改めて思わされた。
そして二人のスケッチブックは同じ建物を描いたページで止まる。
それは私も訪れたことがあった、鈴白村の夏祭りが行われる神社だった。
「神社がどうかしたの?」
首を傾げた私に、二人はよく覚えておいてと言って、次のページを見せてくれる。
そこにはまた神社があったのだけど、私には馴染のない神社だった。
「あ、これって藍染神社じゃない?」
座って覗き込んでいた香本さんが答えると、二人は頷く。
そして残り三枚のページには赤石村、緑林村、鳴黒村の神社が描かれていた。
「ごめん、どういうこと?」
察しの悪い私が二人を見ると、那奈がハッとしたようにスケッチブックを手に取ってページを何度も行き来させる。
「あんたたち、これっていつ描いたの!?」
「夏休み。五日ずつ通って仕上げたんだ」
「おかしいでしょ、鰉さん」
「確かに……」
黙り込んだ三人は心なしか顔が青ざめていた。
「どういうことよ」
まだ理解が出来ない私に、那奈が最初の鈴白神社の絵を見せた。
そこには建物の他に、参拝客らしき人たちもいてそのうちの一人を指差す。
神社をメインに描いているから気にもしなかったけれど、那奈が指差した参拝客は五枚の絵すべてに描かれていた。
しかも里田さんと三木元さん、二人のスケッチブックにである。
その奇妙な一致に眉を顰めた。
「私たち、初日に下書きをするからこの人、初日に必ず居たんだと思うよ」
それにしても、である。
五日後に違う神社を訪れて、その度にこの参拝客がいるって確率的におかしい。
余程毎日通っているのか、彼女たちの絵に入り込もうとしていたかのどちらかである。
「でね、最後の鳴黒神社でなんだけど……」
「多分新田さんっていう人だと思うんだけど、声掛けられてさ」
「何してるのって」
「だから私たち、この絵を見せてあげたんだ」
交互に話して明かされた参拝客の正体に、ぞわぞわと悪寒が走った。
新田さんが神社に通っていた……。
それも頻繁に。
「そしたらすっごい驚いて、見てたんだって言われたんだ」
「めっちゃ睨まれて怖かったよね」
「ねー」
呑気に頷き合った二人はスケッチブックに目を落とした。
新田さんは日中に神社に通って何をしていたんだろう。
まさか、という考えが頭を過ったけど、亜由美ちゃんの『呪い』、そして『神社』のキーワードから導かれる答えって短絡的だけど一つしかなかった。
「これってマジで新田の仕業なんじゃ……」
顔を顰めた那奈に、亜由美ちゃんも同意して口元を手で覆う。
そして香本さんが絵を見ながら、ディスカッションを始める。




