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「お前は一体何をして来たのだ」
「か、鏡磨き?」
「何故そのような格好になる」
「ふ、不慮の事故?」
「……付喪神め。豹馬、役目にで」
「ちょぉっと待ったぁーーー! 彼女は関係ないから、むしろ直撃を避けるために助けてくれたから」
必死に大柄な振袖男の娘を押し留め、呼ばれて近寄って来た巫女男の娘を追い払う。
無実の付喪神を祓おうだなんて酷すぎる。
その前にそんな恰好の二人が歩いていたら、何かあるのかなって皆の視線が集まってお役目どころではないだろうに。
「私は大丈夫だから」
「しかしその格好ではこのあと楽しめまい」
午前の持ち回りが終わった玉彦は3Cの控室で帯を解きながら口を尖らせた。
寄りによって最終日にこんなことになってしまって、申し訳ない。
午後からは歌合戦の決勝や、去年は参加出来なかったけどグラウンドの真ん中に篝火を囲んで結果発表を聞きながら皆で踊ったりなんだりとお楽しみがある。
「お屋敷に帰って着替えてこようかな……」
「時間が惜しい。比和子、脱げ」
「はっ?」
制服に着替えた玉彦が私の濡れた制服のボタンに手を掛けたのを、周りに居た香本さんや那奈が手を掴んで阻止をした。
「玉様、さすがにここでそれはまずいと思う」
「そうだよ。何考えてんの」
非難された玉彦は思いっきり不機嫌そうに二人を睨んで手を払う。
「お前たちこそ何を不埒なことを考えている。濡れたままだと比和子が風邪を引いてしまう。それに着替えならある」
そうして指差したのは、今まで玉彦が身に纏っていた緋色の如何にもお高そうな振袖だった。
「え、私、振袖なんて着たことないよ」
「心配するな。着付は俺がする。襦袢くらいは自分で出来るだろう」
「なんだ。そういうことね。玉様、言葉が足りないんだよ。だったら私、髪のアレンジ出来る子連れて来てあげるわ」
そう言って那奈は教室から飛び出して行った。
学校祭を振袖で過ごすって、なんの仮装行列なんだ。
教室の後ろのカーテンに包まってとりあえず自分で襦袢を着てみるけど上手くいかないので結局全部玉彦にお願いする羽目になってしまった。
着物って日本人なら誰でも着られるように簡単にしてほしいと思う。
手際よく着付ける真剣な玉彦に正武家をクビになったら着付講師でもすればいいと思った。
介護士とか猟師とか着付講師とか彼は職に困らないだろう。
振り袖姿になった私は自分の姿が判らないまま今度は椅子に座らされて、田村さんという普通科の女子に髪を委ねる。
一旦水で洗ったままの髪をしっかりタオルで叩いて乾かし、これまた手際よく結い上げられていく。
途切れ途切れに話を聞けば、彼女は鈴白にある唯一の美容室の娘で、高校卒業後美容学校に通って跡を継ぐそうで、数年後ご贔屓にと言われて肩を叩かれた。
前に覗いた美容室は年配の人が多かったけれど、彼女がしてくれるならぜひ行ってみたいと思う。
学ランに着替え直して腕組みをして待っていた玉彦はしげしげと私を見て満足そうに微笑む。
「可愛らしい」
彼が発した一言にその場に居た誰もが動きを止めた。
私も初めて玉彦に国明館の制服を褒められた時、彼がそんな感想を持つのかと驚いたくらいだったから、私よりも長く彼との付き合いがある那奈たちが固まるのも仕方がなかった。
そんな周囲の反応をよそにうきうきした様子の玉彦に手を引かれて教室の外に出ると、ばったりと新田さんに遭遇してしまった。
彼女は先ほどの挑発的な態度とは打って変わって、私が最初に抱いた優しいか弱い大人しめの雰囲気を纏っている。
これが亜由美ちゃんたちが言っていた男子の前では態度が変わるという現象なのだと理解する。
「あ、正武家くん。……と、上守さん」
絶対に教室の前で待っていたのに、然も偶然ですって感じに腹が立つ。
さっきあんなに掴みかかってきたくせに、なんの用があるっていうんだ。
「新田か。中の誰かを呼ぶのか?」
そう言った玉彦は私の手を引いたまま家政科のクラスのドアに手を掛けるけど、彼女が家政科の子たちと接点があるとは思えない。
そこんとこ、やっぱり玉彦は鈍感だと思う。
きっと彼女の様子は鈴白出身の女の子たちから他の出身の子たちに良くも悪くも周知されているだろうし、女子の結束が固い家政科の子たちがそうそう新田さんを受け入れるとは思えなかった。




