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「だとしたら何なの? 新田さんに何か関係あるの?」
「別に関係は無いよ。でも類は友を呼ぶのかなって思っただけ。田舎ならではの変な風習が続いてるんだなって思っただけ」
「悪いけど、話ってそんなくだらないことなわけ?」
「ううん。上守さんは須藤くんのことどう思ってるのかなーって聞きたくて」
「はぁ?」
訳の分からない質問ばかりに私は盛大に眉間に皺を作った。
彼女のペースに巻き込まれない様に頑張っていたけど、意味不明過ぎる不可解な言動にイラッとする。
「彼のこと、好きなの?」
「須藤くんは仲の良い友達だよ。好きとか嫌いとかそんなのないから」
「そうなんだー。そうだよねー。あの人めっちゃ嫌われてたもんねー。中学の時戻って来たら、普通になってて驚いたんだよー」
「須藤くんは自分のせいで皆に嫌われてたわけじゃないから。何にも知らないくせに勝手なことばっかり言わないでくれる?」
「やっぱりむきになるってことは好きなんじゃないのー?」
私を煽ろうとするのが見え見えで疲れてくる。
でも、舐めんなよー!
今は美山高校って田舎の学校にいるけど、元々は通山市のマンモス校に小中高と居たんだ。
こんな女の牽制のし合いなんて日常茶飯事だったんだから!
ぐっとお腹に力を籠める。
美山高校に来てからのほほんとしていたけど、そうもいかない。
ここで言い負けてるとこの人はどんどんつけ上がってきそうだ。
今さらながらに亜由美ちゃんが教えてくれたことが頭を過る。
「私が誰のことをどう思おうと新田さんには関係ない。そもそも私とそんな込み入った話が出来るほど仲良くないでしょ。玉彦とか豹馬くんと友達かもしれないけど、私とあなたは無関係。そこんとこ混同してる辺り、友達と深い人間関係を築いたことないんじゃない? 悪いけど、これ以上会話したくないんだけど」
「上守さんって性格悪いんだね」
「だからどうしたの? こんな性格の悪い私でも好きだって言ってくれる人がいるから気にしてない」
「正武家くんもその本性知ったら愛想が尽きるんじゃないかなぁ」
「お生憎様。玉彦は私にそのままでいろと言ってるの。全部知った上でね。人の心配する暇があったら、自分の心配でもしたらどう? 学校祭なのに一緒に回ってくれる友達もいないの?」
「上守さんだってここに一人じゃない」
「私は好きで一人でいるの」
正確には付喪神に会いに来ていたのだ。
那奈たちの誘いを断ってまで。
「私だって好きでいるんだよ」
「そう、それは良かった」
これ以上ここに居る必要が無いと判断した私は、雑巾が入ったバケツを手に腰を屈めた。
その瞬間、鏡から伸ばされた付喪神の手が私を鏡の方へと引き倒した。
尻餅をついて前を見上げると、銀色の長く細いものを私に振り上げて空振りした新田さんが私を睨んでいた。
直撃してたら頭に刺さって死んでたんじゃ……。
「なっ、何してんのよっ!」
思わず濁水入りのバケツを投げつけると、新田さんは怯んだ。
でもすぐに私に掴みかかって髪を引っ張り出す。
なっ、なんで急に暴力に訴え始めたんだ、この人は。
押し倒される格好で組み合って、ごめんと思いながら私は屈めた両足で新田さんのお腹を蹴り上げた。
彼女は鏡とは反対方向の壁に衝突して尚も立ち上がって向かってこようとしたので、私は不本意ながら眼を使おうとした。
けれど。
「新田! 何やってんのよ!」
階段の下から那奈の怒鳴り声が聞こえて、新田さんは自分の握り拳をみてニヤリと笑ったあと階上へと走り去った。
入れ違いで香本さんと走って来た那奈は、惨状を見て新田さんを追い駆けようとしたけれど私はそれを止めた。
「比和子、あんた大丈夫!? ずぶ濡れじゃんか! 髪だって!」
「あ、見た目より全然平気。でもどうして二人がここに来たの?」
「上守さんが鏡を掃除しに行ったって玉様から聞いて、手伝えば早く終わるから午前中一緒に回ろうと思ったんだよ」
香本さんの手を借りて立ち上がると、那奈が雑巾で撒き散らされた濁水を拭いてくれた。
「この事、皆には言わないでね」
「どうしてよ。新田、アイツやっぱり比和子に」
「良いから。大丈夫。言わなくていいよ」
この世には因果応報という言葉がある。
彼女は身をもってそれを知ることになるだろうことは想像が出来た。
それがどんな形であろうとも。
濡れた指先で瞼に触れると微かに熱を帯びている。
振り向けば古鏡の中で一部始終を見ていた付喪神が、鏡面に両掌を当てて心配そうにしていた。




