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そして時は過ぎゆき、高校三年生最後の夏休みを海で過ごしたのは良いけれど、以前玉彦が言った通り私がいる夏休みはどうにもこうにも騒がしく問題が起こるらしく散々な目に遭って、二学期を迎えた。
二学期には十一月に学校祭があり校内は騒めいていたけれど、進学特化クラスは増々受験体制になった。
そんなクラスだったけれど学校祭のクラス展示などを免除される訳でもなく、結局は当日女装するだけで済むということから3Cの家政科と再び手を組むことになった。
半分クラス委員の私のゴリ押しと昨年の学校祭で誕生した両クラスのカップルたちの後押しがあってのことである。
進学特化で自由に動けるのが私しかいないことに同情した3Cの皆は忙しい中、こちらのクラスの横断幕作製などに協力してくれて女の友情に感謝である。
ついでに見るに見かねた那奈やそのお友達も手伝ってくれて、何とか無事に明日学校祭を迎える事が出来たのだった。
季節が冬へと移り変わる夜の縁側で、毛布に包まり南天さんお手製のはちみつ入りホットミルクを飲んでいたら、受験勉強を終わらせた玉彦が枕を抱えてやって来た。
当初の約束では金土の夜だけ一緒に寝るということだったのに、一年経った今ではもうそんな約束がなかったように玉彦は毎晩来ていた。
さすがに夜のキャッキャウフフは平日は全力で断っていたので玉彦も最近は聞き分けよく諦めていた。
私が両手で包んでいたマグカップを上から取り上げ床に置くと、毛布に無理矢理入ってくる。
自分でもう一枚持ってくれば良いのにと思いつつ、夜風が入る隙間を手で押さえた。
するとちゃっかり玉彦は私の残りのホットミルクを飲み干して夜空を見上げて白い息を吐いた。
「今夜はよく冷える。初雪が降るかもしれぬな」
「そう思って見てたんだけど月が出てるし雲もないから降らないかも」
「去年は降ったが、今年は降らねばよいな」
「どうして?」
「嫌なことを思い出す」
「なんかあったっけ?」
「……去年のこの時期、比和子は俺から離れていた」
「あっ、あぁ。そんなこともあったね……」
「学校祭も結局は一日だけしか共に回れなかった。今年は三日間一緒にと思うのだが、もう弓場や鰉たちと約束をしてしまったか?」
「ううん、まさかでしょ。学校祭は最後の大きいイベントなんだから彼氏の玉彦と一緒に居るに決まってるじゃん。みんなその辺は空気を読んで誘ってこないよ」
「そうか」
照れたように顔を伏せた玉彦。
凄く嬉しいのを一生懸命に隠しているけれど、丸わかりで可愛い。
こうした仕草を見ると美山に残った甲斐があるってもんだ。
「でもずっと一緒にはいられないでしょ。女装喫茶の方はどうするの?」
「俺は午前中だけだ」
「稼ぎ頭の一角によくもまぁそんなお許しが出たわね」
「須藤が俺と豹馬に貸しだと言い引き受けてくれた。アイツは三日間全日だ」
「そんな……。須藤くんだって最後の学校祭なんだよ!?」
「アイツはただ皆と騒ぐ方が今は楽しいのだそうだ。小学生の頃は楽しい思い出が何も無い」
しんみりと呟いた玉彦に私も黙った。
そうだった。
今でこそ須藤くんは皆に囲まれて、性格も良いし見た目だって良いから人気者になっているけど、白猿の件が終わりを告げた中一の夏休みまでは自分が悪いわけではないのに疎まれていた。
私の中で女ったらしのイメージが付きかけていたけど、それだって反動で弾けてしまった結果だったのかもしれない。
「そっか。まぁ須藤くんが納得してるんだったら何も言わないけどさ。でもたこ焼きとか買って行ってあげようね」
「そうだな。それもあるがお前も中々に忙しいだろう。今年も歌うのだし」
「そうよ! 今年こそ悲願の優勝を目指すわよ!」
去年は福田先輩というダークホースに掻っ攫われたけど、今年こそ優勝してやる。
そうでなければ週末に何度もカラオケ屋さんに連れて行ってくれた澄彦さんに申し訳が立たない。
最後の方はもう溺愛主義の澄彦さんは庭にプレハブ建ててカラオケ器材を買おうとしていたけど。
毛布の中で握り拳を掲げれば、玉彦が優しく包んで降ろさせた。
「さっさと敗退して共に在れば良いのに」
「それって玉彦が受験に失敗して正武家に居れば良いのにってことと同じだから」
「……」
久しぶりに玉彦の常識のなさが露見したところで、私は本格的に冷え込んできた縁側を後にしたのだった。
そしてやはりというかなんというか。
学校祭最終日に亜由美ちゃんや那奈が危惧していた新田さんを起点とする騒動が巻き起こる。




