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翌日。
私はさっそくお昼休みにこっそり亜由美ちゃんと落ち合って、昨日南天さんから教えてもらった五村道と呼ばれる裏道の話を報告した。
すると亜由美ちゃんの表情がぱあっと明るくなって満面の笑顔になったので、私も満足する。
ちょっとでもお役に立てて良かったな。
あとは豹馬くんが承諾してくれれば良いんだけどな。
亜由美ちゃんと肩を寄せ合って家政科前の廊下で豹馬くん攻略を話し合っていると、普通科へと戻る新田さんが足早に顔を伏せて通り過ぎた。
あからさまに私を避けていた気がする。
だって今彼女の後ろ姿を見れば普通の速度だもん。
全員に好かれたいわけじゃないけど、特に関わり合いが無く被害を与えたわけではない私を避けるってちょっとショックだった。
「じゃあ今日豹馬くんうちに来るから言ってみる。ありがとうね、比和子ちゃん」
「全然だよ! 上手くいくと良いね!」
そこまで言うと予鈴が鳴ったので、私は進学特化の教室へと戻る。
教室のドアを開けるともう全員席に着いていて、机に向かっていた。
異様な風景に音を立てない様に席に着く。
進学特化の午後の授業は自習になっているけれど、三年生になると先生が居なかった二年の時とは違って三人の先生が常駐して手が上がれば指導するスタイルになった。
二年の冬休みを終えてからは通常の授業のスピードが速くなり、三年生の内容はこの夏休み前に終わらせて本格的な全日受験体制になる。
そうなるとぶっちゃけ私は夏休み以降、勉強をする必要が無くなってしまう。
だって卒業したら進学しない。
皆の邪魔にならない様に大人しくしているだけになるのだった。
美山高校では進学特化の生徒が進学しないことは稀らしく、でも正武家の事情を暗黙のうちに了解しているので私に進学を勧める先生はいなかった。
代わりに空いた時間を図書室や美術室で過ごす許可が出ていた。
一応課題はあって図書室だと読書感想文が必須で、美術室では作品を仕上げること。
夏休み前に単位は揃うので、あとは出席さえしていれば問題なしだ。
でもこれは私が求めていた学校生活とは程遠い。
進学校のような進学特化クラスの変わりように退屈する。
とりあえずパラパラと教科書を開いて明日の授業の為に付箋を貼り付ける。
本鈴が鳴って先生たちが教室に入って、自習時間が始まる。
それから自分の自習を終えた私は、ぼんやりと勉強に励むクラスメートたちの背中を眺めた。
皆の話を聞いているとどうやら卒業後全員が鈴白村を離れて大学生活を送るようだった。
その中で鈴白に戻って来るのはごくわずか。
寂しいよなぁ。
そう思って見ていると、不意に視線を感じた一人が振り返った。
くるっとこちらを見るとお前かという風に半目になったのは豹馬くんだった。
まだ亜由美ちゃんから五村道の話を聞いていないのでこの反応だけど、きっと彼女から話を持ち出されたら、余計なこと言うなって言い出すと思う。
亜由美ちゃんの気持ちを考えれば折れてくれると思いたいけど、九条さんに一々見られたくないという思いもあるだろうし勝率は五分五分だ。
そんな思いを抱えながらへらっとして手を振ると、無反応で彼は前に向き直った。
そこで私はふと思う。
そもそも玉彦たち三人はどうしてあんなに受験勉強を頑張っているのか。だ。
彼らの進学先はなんと通山にある国立大学だった。
有名でもなく偏差値だってそんなに高くはない。低くもないけど。
強いて言うなら鈴白村から一番近い国立大学っていうことくらい。
玉彦は色々と頭を悩ませてここに決めたけど、豹馬くんと須藤くんは別に玉彦と一緒でなくても良かったはずだった。
なのに三人揃って同じとこ。
彼らの親は手間が省けると言って気にもしていない。
何か三人で良からぬことを考えているんじゃないかと勘ぐってしまうけど、まさかねぇ……。
そんなこんなを考えていると、いつの間にか自習時間が終わり、本日の私の学校は終わった。
こういう日々が続くのだと思うと面白くもなんともなく、国明館に帰りたいなって思う。
小町と守くん、何してるかなぁ。
HRを俯いて過ごすと、机が一瞬にして暗くなった。
見上げたら帰り支度を済ませた玉彦が待っていた。
「帰るの?」
「さきほど連絡が入り、夜に役目が入った」
「そっか。じゃあ一緒に、は無理か。先に帰って待ってるね」
私は毎日車で送り迎えしてもらって、玉彦は自転車通学だった。
なので学校の帰り道を二人だけで帰ったことはない。
「比和子はジェットコースターは好きか」
「へっ?」
玉彦の思いがけない質問に私の時が止まる。
え、ジェットコースターってなんで今?
明日から土日で遊園地にでも行こうって言うのだろうか。
それとも今夜のお役目は閉園後の遊園地なのだろうか。




