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「随分と古いものを引っ張り出してきたな……」


「えぇ。ですが比和子さんも知っておかれた方が良いと思いまして。何かの際には使えますから」


「使わぬことを願うばかりだ」


 玉彦の口ぶりだと彼も裏道の存在を知っているようだ。

 でも普段は使わない道のようで気にもしていない様子が窺えた。


 南天さんの指先が正武家を指し示し、ズズッと右に進んで止まり御門森と記されている。

 そこから斜め左下へズズズズズっと下がって、お祖父ちゃんの家の上守。

 直角に下がって亜由美ちゃんの弓場。

 弓場の後方から上守の名もなき神社前を通り、正武家の裏門にある駐車場になっている空き地まで半円が描かれた。

 そしてそこからまた半円を描き、御門森のお屋敷の裏手。


 地図にはハッキリと道がある。

 でも私はそんな道を見たことがない。

 未だに裏門を通ってはならないと言われていたので、その辺りに詳しくないのもあったけれど、名もなき神社の周辺から正武家へと抜けられる道があるだなんて。

 一体この裏道は何のために作られたんだろう。


「正武家を経由しますが、徒歩であればこの道が使えるんですよ。そして」


「正武家へと繋がるこの五村道で見聞きしたものは誰にも話してはならぬ決まりがある」


 途中で南天さんの言葉を勝手に引き継いだ玉彦が私に説明をする。


 決まり、かぁ。

 夏子さん曰く、田舎の暗黙の了解ってやつ、お祖父ちゃんが言うところのしきたりってものだ。

 そうか。この道を豹馬くんと亜由美ちゃんが歩いているのを見かけても誰にも話してはならないんだ。

 しかも山中を経由するから殆ど人目に付かない。

 てゆーか、誰にも見られない。こんなとこ、使う人なんていないだろうから。


「そう、なんだ。でもこの五村道を使っちゃいけない人とかいるんでしょう?」


「正武家に仕えている者以外は歩けぬようになっている」


「それってどういう……」


 そこまで言いかけて思い当たる。

 もしかして表門みたいな感じになっているんだろうか。

 でも流石に広範囲過ぎると思う。


「仕えるといっても幅広くてですね、以前仕えていた者でも大丈夫なんですよ。それに道を使用するのは限られていますが、横切ることは可能なので他の村民が困ることはないんですよ」


「ていう事は、亜由美ちゃんの弓場も昔は何らかのお役目をしていたってことですか!?」


「弓場さんの家はかなり昔になりますが、この五村を戦から守る弓隊の家系だったかと記憶しております」


「だから、弓場なんだ……。でもそれって正武家のお役目には関わり合い無いですよね?」


「どちらかというと神守に近い。帝から五村を人の手から守る役を任ぜられていた。もう江戸末期には任は解かれた。本当の帝によりな」


 帝から任を解かれたってことは、本当に解放されたんだ。

 神守は任を解かれたと思っていたけれど、それは正武家からで帝では無かったから無効になったけど。


「因みに鰉那奈の鰉とは最近変わり、元は海鏡つきひがいと呼ばれていた。由来は海に纏わる者だったからだ。これも明治辺りに任を解かれたはずだ。そしてその時期辺りに出来た鰉という漢字を当てた」


「那奈の家も!?」


「お前が知らぬだけでまだそういう由縁の家はある。五村、特に鈴白は正武家との関わりが深い腹心たちが住まわっていた村だからな。さて、良い気分転換が出来た。戻る」


 大きく伸びをした玉彦は首を回しながら出て行く。

 どうやら一応受験勉強や大学へ行くことの意味に納得した様である。


 残された私は南天さんに五村道の詳しい話を小一時間ほど質問を交えて説明してもらい、さっそく明日亜由美ちゃんに教えてあげることにした。

 そう言うと南天さんも賛成してくれたので、あとは二人がこの距離を歩いてくれるかだ。

 亜由美ちゃんの家から出発しなくても正武家の駐車場からだと距離は半分近くになるし、そんなに苦でもないだろう。


 後の問題は……。


「豹馬が首を縦に振ると良いんですがねぇ……」


「そこんとこは振ってもらわないと困りますよねぇ……」


 五村道の存在を勿論豹馬くんは知っていた。

 幼い頃、玉彦とそこで遊んでいたくらいだから忘れている訳ではないだろう。

 しかしこの道が御門森の裏手に通じていることが問題だったので使わなかったのだろうと南天さんは苦笑いをする。


 御門森の裏手、道の終わり。


 そこには先先代の稀人である御門森九条さんの庭に面していたのである。



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