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 南天さんは苦笑して、恥ずかし気に頬をポリポリとする。


「同じ大学ではなくて、近所の定食屋さんの看板娘だったんですよ」


「定食屋さん!?」


「えぇ、何度か通ううちに意気投合しましてね。鈴白へ戻る際に共に来ました」


 と、いうことはだ。

 紗枝さんは亜由美ちゃんと同じく一般家庭の人だったけれど、御門森へ直接お嫁さんとして来たから手土産云々の話は無かったわけだ。


 ダメじゃん。

 参考になんないじゃん。


 でも思いがけず南天さんと紗枝さんの馴初めを聞いて、ほっこりした。

 正武家とは違ってきちんと恋愛結婚だったことに。

 澄彦さんはどうだったんだろう。

 慣習に則って五村の花嫁候補から玉彦のお母さんを選んだのだろうか。

 その辺の話は踏み込んではいけないような気がして聞いたことがないけれど。

 須藤家での白猿の話の時に奥さんを愛してるとは言ってたけど、真相はどうなんだろう。


「比和子さん?」


 考え込んで無言になっていた私を心配そうに南天さんが覗き込んだので、単刀直入に聞いてみることにした。

 玉彦にしたって南天さんにしたって関係の無い話ではないのだ。と無理矢理納得する。

 それに恋愛経験ゼロの玉彦に聞いたって解決出来ないだろうし、ここは南天さんの知恵を頼るしかない。


「あのですね。亜由美ちゃんが御門森のお屋敷に遊びに行く時の手土産についてなんですけど」


「あぁ、紗恵から聞いてますよ。いつも気を遣わせてしまっているようで申し訳ないですね」


「持って行かないっていう選択肢はアリですよね?」


 きょとんとした南天さんは話が長くなると思ったのか、椅子に腰掛けた。

 口を挟む余地のない会話に玉彦は私の肩に再び頭を預けてうとうとし始めている。


「もちろんですよ。むしろ本来なら大事な娘さんに御門森に来ていただいてるのですから、こちらからお土産を持たせたいくらいですよ」


「そうなると土産合戦ですね」


「そうなりますね。豹馬も目立たぬように裏道を使えば良いものを正面を通るから人目について面倒なことになるのですよ。弓場さんの娘さんなら大丈夫でしょうに」


 南天さんの様子だと亜由美ちゃんちが村民の目を気にしていることは承知しているようだった。

 そしてやっぱり手土産なんか必要ないと。

 でも私の耳は違うことに大きくなった。


 裏道って、何よ!?


「南天さん、裏道って何ですか!? 秘密基地的なものですか!?」


「そんな愉快なものではないですよ」


 微笑んだ南天さんは少し待つように私に言って、台所から出て行ってしまった。


 それにしても裏道って何だろう。

 この鈴白に来てから始めて聞いた言葉だ。

 それに亜由美ちゃんなら大丈夫って、不思議で一杯だ。


 寝息を立て始めた玉彦の髪を梳くと、無意識なのかもっと撫でろというようにすり寄ってくる。

 こうしていると寝顔にはまだ幼さが残っている。

 色々あって玉彦と一緒に居るって決めたけど、改めて考えると凄いことだ。

 中一の出逢いからずっと会っていなくて、ようやく再会したと思ったら惚稀人願可の儀で産土神たちに認められて、こうしてここに居る。

 玉彦も私も無条件でお互いを受け入れて、まだ生まれて十七年なのに一生を共にする相手といるって凄いことだ。

 こんなに簡単に相手を決めてしまって良いものかとも思うけど、私の人生でこの先玉彦以上の男の人が現れるとは思えない。

 家柄や容姿だけなら上には上がいるだろう。

 でも何にもない私をただただ真っすぐ一途に好きだと言ってくれる人は玉彦だけだと思う。

 そう思うと隣の玉彦が無性に愛おしくなる。

 私のバケツプリンだって食べても良いよって思えちゃう。


「お待たせしました」


 戻って来た南天さんは前置き無しに、手にしている折りたたまれた古い紙をテーブルに広げた。


 六人掛けのダイニングテーブル一杯に広げられたのは、鈴白村の地図。

 以前白猿の時に澄彦さんが使っていたものによく似ていた。

 地図の端はもう擦り切れてボロボロになっていて、破けない様にセロテープで縁取り補強されている。

 筆で手書きされた地図は詳細に記されていて、鈴白村の真ん中にある正武家を見つけることが出来た。

 もう何十年も前に作られたはずの地図なのに、お祖父ちゃんの家や亜由美ちゃんの家、そして御門森の家が今と変わらぬ場所に存在している。


 何故かぞくりと鳥肌が立った。


 須藤くんの家も神社も変わらない。

 もしかして鈴白村の正武家に関わる家系の家は、ずっと同じ所にある……。

 その配置にはきっと意味がある。

 私が見ても判らないけど、隠された何かが絶対にある。

 そしてその中に組み込まれている亜由美ちゃんの弓場家。

 弓場も昔は何らかの役目を担っていたのだろうか。

 力を無くして正武家からお役目を解かれてしまった?


 目を見張った私の動きを察知した玉彦が、目を擦りながら身体を離した。

 ふわっと身体が軽くなる。でも温もり無くなってしまってひんやりする。



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