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 那奈は仲間になってしまえば、本当に頼もしくて姉御肌で優しい。

 私も彼女と一悶着あったけど、お互いに水に流して今では仲良くしている。

 亜由美ちゃんは鈴白村で出来た初めての女の子の友達で親友といっていいけど、那奈もまた私の腹黒暗黒部分を良く知る親友だ。

 そして友達思いの彼女は、私の彼氏である玉彦に近付く女子を敵視していた。

 玉彦に告白の断り方を事細かにレクチャーして、彼がズレた断り方をすると烈火の如く怒る。

 彼女の私でさえそんなことでは怒らないのにだ。


 そんな状況の中、新田十和子という人は転校をしてきた。

 彼女が転校してきた初日、私は何故か那奈に呼ばれて放課後の普通科クラスに来ていた。


「おーい、那奈ー」


 教室の後ろから顔を覗かせて呼べば、窓際で友達と喋っていた那奈が振り向いた。

 そして私を手招きするので遠慮しつつクラスに足を踏み入れた。

 正直、進学特化クラスの生徒は他の科の生徒から嫌われている。

 しかも私は前の学校の制服のままだったから悪目立ちしていた。

 本当はセーラー服に変えたかったけれど、澄彦さんの猛反対でこのままだ。

 そして玉彦も私が見付けやすいからという理由だけで、そのままが良いと希望していた。


「どうしたの? このあとどっか遊びに行く?」


「そうしたいのは山々だけど、廊下で玉様待ってんじゃん」


「そうだけど。家に帰ってからだったら出られるよ。どうせ玉彦部屋から出ないだろうしさ」


 那奈が腰かけていた机の椅子に勝手に座り、彼女を見上げると私ではなく廊下をきつい目つきで眺めていた。


「那奈?」


「あいつ、ムカつく」


 その視線の先には玉彦がいた。


「えっ。玉彦なんかしたの!?」

 

 私の驚き様に那奈は呆れて首を振った。

 そして気怠そうに指を差した先にいたのは、見かけたことのない女子生徒だった。

 教室の入り口に凭れ掛かって目を閉じていた玉彦に駆け寄り、声を掛けている。

 美山高校のセーラー服の背を隠す程に長い黒髪。

 残念ながらこちらから顔は見えなかった。

 声を掛けられた玉彦は少しだけ目を見開いたのが判った。


「あの子がどうかしたの?」


「気を付けなよ、比和子。あいつ、マジでムカつくから」


 忌々しそうに忠告をしてくれた那奈だったけど、ムカつくから気を付けろって意味不明である。

 状況が飲み込めなくて那奈を見つめていると、彼女は大きく溜息を吐く。


「あいつね、玉様狙いだから」


 言われて思わず玉彦のところへと視線を戻す。


 玉彦狙いって、今さら!?

 良いのか悪いのか私と玉彦が一つ屋根の下で生活していて、婚約まで済ませているというのは学校中に知れ渡っていた。

 なので二年生三年生ではもう玉彦に言い寄ってくる女子は皆無だった。

 新一年生も夢を見るだろうけど、いずれはその話が耳に入ってしまうだろう。


「あいつ、今日転校してきたから玉様に比和子がいるって知らないんだよ。ほら、行くよ」


「へっ?」


 那奈に手を引かれて二人のところへ行くと、気配に気が付いた女子が振り向いて那奈を見ると顔を伏せた。

 視線を斜め下に下げて、まるでいじめられっ子のようだった。

 でも、可愛い顔をしている。

 素朴であどけなさが残る純真そうな。

 とりわけ小町や那奈の様に判り易い可愛さではないけれど、どこか人をほっとさせる感じ。


「比和子。コイツ、新田十和子。今日転校してきたんだ」


「あっ、そうなんだ……。よ、よろしくね」


 唐突に始まった自己紹介に私と新田さんは戸惑った。

 玉彦と知り合いっぽいけど、別に私が友達になる必要はないし、彼女は普通科だ。

 私とは接点が無い。

 しかも那奈がムカつくというくらいだから、ランチ仲間にはなれないだろうし。


「新田、この子、進学特化の上守比和子。わかる? 『比和子』。あんた勘違いして玉様に近寄るんじゃないよ」


「え? 那奈?」


「おい、鰉……」


 敵意丸出しの那奈に問い掛ける私と、何かを止めようとする玉彦の声が重なった。

 そして那奈の言葉を聞いた新田さんは驚いて私を見ていた。


「中三の時、玉様が言った『比和子がいる』って『十和子』じゃねーから。あんた勘違いしていい気になってたけど、玉様にはずっと比和子がいたんだからね」


 腰に両手を当てて仁王立ちする那奈と、呆れたようにする玉彦。

 そして青ざめた新田さん。

 訳が判らない私。


「玉様もさ、誤解させたままでどうするつもりだったわけ?」


「どうするも何も新田が何を誤解していたというのだ」


「だーかーらー!」


「わっ、私、もう帰るから! それじゃ……」


 玉彦と那奈の問答を遮って、新田さんはカバンを抱えて廊下を走り去って行った。

 そんな彼女の背中を見送りながら、玉彦は非難の目を那奈に向けたけど那奈もまた玉彦に非難の目を向けていた。


「なぜ毎回鰉は新田にそうも冷たく当たる」


「嫌いだから。ムカつくから。仲良くなる必要なんてないから」


「……人の好き嫌いは其々であろうが、ならば構わなければ良いのではないか」


「私の視界に入るのが嫌だから。さっさと消えればいいのに。てゆーか玉様さ、わかってんの?」


「何をだ」


「断言するけど、新田が玉様の周りをうろちょろすると比和子が嫌な思いするんだからね」


 意表を突いた那奈の発言に、黙って会話を聞いていた私を玉彦が振り返った。

 いや、別に玉彦が友達と仲良くする分には全然問題はないんだけど。

 たとえ彼女が玉彦狙いだったとしても、それは彼女の心がそうなんだから私がどうこう思ったところで仕方がない。

 私は玉彦を信用するしかないのだ。


「そうか……。仕方あるまい。折角比和子が美山に残ると決めたのに不快な思いはさせられぬ」


「そうそう。玉様は新田に構ってる場合じゃない訳よ。比和子が通山に帰るって言い出さない様にしっかり繋ぎ止めておかないと!」


「うむ。帰られるのは困る」


 最近、こと恋愛のことに関して疎い玉彦は那奈の助言を参考にしていた。

 おかしな関係になってしまったものである。

 しかも大抵は那奈に言い包められていた。


 これが私が新田十和子という人と出会った最初の出来事だった。



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