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 結婚一年目。


 この年は様々なことがあり、私と血を分けた家族三人が亡くなってしまった。

 このことについてはあまり話したくはない。

 今でも不意に思い出して泣いて玉彦を困らせてしまうことがある。

 もう大丈夫だと自分では思っていたけれど、心のダメージは深く深くひたすらに深い。

 家族のことを忘れるはずはなく、いつか穏やかに思い出せる日が来ることを願うけどそれはまだまだ先のことだと思う。

 とりあえず今は、触れたくない。


 正武家のお屋敷には当主を始めとする面々が住んでいるけど、その中に『稀人まれびと』と呼ばれる人たちがいる。

 彼らは正武家に付き従い共に移住してきた人たちで、主家である正武家に仕えている。

 通常は当主に一人とされていて、先代の当主から次代の当主へと仕える。

 なので現当主である澄彦さんの稀人は先代当主道彦の稀人であった御門森みかどもり宗祐そうすけさんとその息子の南天なんてんさんが務める。

 そして次代の玉彦の稀人は南天さんとその息子の竜輝たつきくんが務めることになるのだけど竜輝くんはまだ高校生のため、本格的には務めていない。


 というのが本来の流れなのだけど、玉彦には彼らの他に稀人が三人存在している。

 南天さんの弟である豹馬くん、遠い昔に御門森から血を分けた須藤涼くん。

 二人は私たちと同じ年である。

 そして清藤多門。因みに年は一つ下。

 彼のご先祖は一度正武家から離脱してしまったけど舞い戻った経緯がある。

 といってもずーっと昔の話でもう何百年も前の話。

 正武家と清藤は主従関係で微妙な距離間を保ちつつ現代まで来ていたのだけど、様々な思惑と擦れ違いから反旗を翻した清藤は、正武家により粛清され取潰しとなった。

 この時、私の家族は犠牲となってしまった。


 これが私と玉彦が出逢ってから十年の出来事。


 正確には私が五歳の時に彼とは出逢っていたのだけど、なぜか綺麗さっぱり忘れてしまっているので私にとっては十年。

 玉彦にとっては十八年らしく、この話になるといつも口を尖らせる。

 だってしょうがないじゃないの。

 玉彦が五歳の時に私を蛇から助けてくれて、怖い思いをしたのを忘れろって言ったのを私は馬鹿正直にそこでの出来事を全部忘れてしまったんだから。


 そして五歳の玉彦が私と共にいたいと願ったその時から、私は彼の『惚稀人ほまれびと』となったのだけど、その時は惚稀人は神様からの賜りものであるという考えだったので誰も気が付かなかった。


 因みに惚稀人とは正武家の当主と添い遂げる伴侶のこと。

 正武家は婿や嫁は長く居着けないけれど、神様から認められた惚稀人ならば共に在れる。

 惚稀人は生涯に一人、きっと初恋の人に限るというのが澄彦さんの推測だったけど定かではない。

 なにせ神様の考えることは世間の人間とはズレていることが多い。


 そうそう、神様といえば日常生活において目に見えないけど存在している。

 現に私には御倉神と呼ばれる神様がいて、玉彦や澄彦さんにもお世話になっている神様がいるのだ。

 愛すべき神様たちだけど、こちらの常識は通用するとは限らない。


 そんな不可思議な出来事が当たり前の様にある五村は正武家の鎮めの地。

 昔からずっと彼らに護られ、繁栄してきた五村の地の人々は正武家を敬い畏れる。



 鈴白村の真ん中の、小高い山の上にある正武家様のお屋敷は、裏門からしか入られぬ。


 当主次代惚稀人稀人、産土神の赦しが無くば表門は通られぬ。


 正武家様のお役目は口出し無用の決まりごと。


 正武家様の云い付けは問答無用の守りごと。


 守らぬ者は消え失せる。


 守れぬ者も消え失せる。


 正武家様が居らぬこの地には永劫苦難が待ち受ける。


 五村鈴白正武家様の揺るがぬお役目定め也。



 私の従妹である十三歳年下の希来里ちゃんは、この歌を歌いながらお手玉をしていた。

 きっと意味も解らずに歌っていたと思うけれど、この田舎の五村には確実に正武家への尊敬と畏怖が連綿と受け継がれている。


 私はこの鈴白村で神守の役目を担いつつ、玉彦と共に生きて行くと決めた。

 どんなことがあったとしても絶対に彼と共に在り続けるんだ。


 そうして私は朝からお屋敷の片隅にある産土神の社に手を合わせた。



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