新たな力
「ところでさ、日中海斗の友達でも来たの?」
結お手製の雑炊を食べていると、キッチンからそんな声が聞こえてきた。
「え、あー、まぁ。そうだな。」
さすがに神様が来たとは言えないので、若干濁しながら返答する。
「じゃあ、それでか。テーブルの上になんか飴と一緒に紙が置いてあったんだけどさ、なんか書いてあるんだけど全然読めなくて。ふざけて書いたのかなぁって思ったんだけど。」
「紙?」
なんだろうか。ハデスが置いてったのか?
「うん。そこにあると思うよー。」
そう言われたので近くを少し探してみる。
それらしきものはすぐに見つかった。
「? これは……」
そこに書かれてあったのは、記号のようなぐにゃぐにゃした文字だった。だが……
(読めるな、これ。)
その文字の上に、日本語が浮かび上がって見えた。結にはこれが見えていなかったのだろうか?
気になった俺は、ひとまずその文に目を通すことにした。
海斗
もう体調は良くなっただろう?
お前を治すのは骨をおったが、無事成功してよかった。
今回の事だが、あれはお前にあげたスキルの不具合が原因だ。マジですまん。
ちゃんと元に戻して今後はもう起きないよう調整しておいたから大丈夫だ。安心して良いよ。
付属しておいたあの飴玉はお詫びの品だと思っておいてくれ。
あれはお前に与える新たなスキルだ。
これからもしかしたら必要になってくるかもしれんからな。
説明は以下の通りだ。
一旦ここまで読んで俺は1度顔を上げた。
ハデス……。さっきまでお前に感謝していた俺は馬鹿だったのか?不具合って……。それで命の危機に晒されたこっちの身にもなって欲しいもんだ。お詫びがあればいいとか、そういう問題ではない。
えーとだな、この飴に付与されているスキル名は
「超動体視力」だ。
前回与えた「健康体」スキルとは違い、これはスキル名を思い浮かべながら"発動"と宣言することで、スキルを使用することが出来るというものだ。
使用時には0.00000000000000000001秒を1秒として捉えることが出来るため、ほぼ時が止まっている状態の感覚となる。
その空間で自分は普段通りに動けるため、瞬間移動のような事も可能であるぞ。
……お詫び凄すぎない?
ごめんハデス。撤回する。君は良い奴だ。
でもさ、やっぱスキル名をがダサいんだよな。
もっとかっこ良い奴つけて欲しいって、命名者に言っといて。
PS.因みにだが、「健康体」を名付けたのは俺だぞ?色々ボロくそ言ってくれたみたいだが、喧嘩を売ってるならちゃんと買ってやろう。俺はいつでも待ってるからな。
…………すんませんでした。
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「なぁルーガン。」
少しムスッとした顔で、私の上司である彼は名前を読んできた。
「なんですかハデス様。仕事ならまだ沢山ありますよ。」
私はいつも通りの平常運転で返す。
「いや、あのだなぁ。一つ質問なんだが、どんな怪我も一瞬で治せるスキルがあったとして、お前だったらなんて名前をつける?」
「はぁ。」
なんともよく分からない質問だ。彼の声のトーンからして、お気に入りの天崎海斗関連であることは間違いないが、なんだろうか。
……まぁ、別になんでもいいか。
「そうですね。「スーパー治癒」とか「健康ハイパー」とかでしょうか。」
何となく思いついた2つを彼に告げる。
すると彼は目を見開き、その後
「ふははははははっ!!!」
と笑いだした。
(何なのかしら。人の答えを笑うだなんて。)
不機嫌になり、眉間に僅かにシワがよる。
ハデス様はひとしきり笑ったあと、涙を拭いながら
「いやぁ、お前も俺と同レベルだったとは。少し安心したよ。」
と言った。
「……馬鹿にしてますね?」
「してないしてない!」
手をブンブンッと左右に降り、彼は告げる。
「俺ら2人ともネーミングセンスがないってことだよ。」
屈辱的なその一言を。
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「ゆいちゃん。おはよー!今年も同じクラスになれて良かったね!」
一日からの春休みも終わって、新学期。
高校2年生になった私は、2年3組の教室で親友の雨宮沙也加と雑談をしていた。
彼女は一言で言ったら、清楚系美人だ。
艶やかな黒髪ロングに優しげな垂れ目。
ぱっちりとした二重とスッと通った鼻筋は、この世のものとは思えないほどに美しい。
なぜ私がこんな人と仲がいいのかと言うと、単純に席が近かったから。
私の苗字は天崎で、沙也加の苗字は雨宮。
中学からずっと同じクラスなんだけど、新学期には必ず席が前後になるから自然と話すようになったんだよね。
「ところでゆいちゃん。この前は誘ってくれてありがとね!久しぶりに大はしゃぎしちゃった。」
「ううん。楽しんでくれたなら良かったよー!また遊ぼうね!」
この前、というのは春休みの時のこと。
あの時は本当にやることがなくて、海斗と相談した結果お互いに友達を呼び集めて人生ゲームをすることにしたんだよね。
集まったのは海斗の友達の早坂莉音さんと佐々木洋人さん、そして、私の友達の沙也加。
いきなりだったけど皆意外と暇してたみたいで、すぐにメンバーが集まったんだ。
「またあの5人で人生ゲーム出来たらいいねー!」
沙也加がニコリと微笑む。
「ねー!」
それに私も笑顔で返した。
と、そんな会話をしていたら教室の扉が開いて先生が入ってきた。
さっきまでガヤガヤとしていたクラスは一斉に静かになり、皆が各々の席に座り出す。
私も沙也加から視線を外して前を向いた。
(春休み、楽しかったなぁ)
ふと、そう思った。今までも長期の休みは沢山あったけど、ここまで記憶に残っているのは初めてかもしれない。
人生ゲームのこともあるけど、それ以外にもたくさんのことをした。
マ○オカートなんて何回やり直したか分からないくらいだもん。
(お互い、負けず嫌いだからねー。)
海斗が負けたら向こうが再戦を申し込んでくるし、こっちが負けても一緒だから、ずーっと終わらないんだ。最終的には50勝50敗になったところで引き分け終了にしたんだけど。
……なんか、こうして思い出をふりかえってみると、私たち2人の性格が意外と似てるように感じてきた。
「ふふっ。」
海斗のことは別に好きではないけど、兄妹ってやっぱ似ちゃうもんなんだなぁ。
「……天崎さん。先程から何を笑っているのですか?心ここに在らずと言った感じですが。」
「あ……。」
先程の笑い声が漏れていたのか、教壇から鋭い視線が突き刺さってくる。
新担任となった彼女につけられているあだ名は鬼バ○アなんだよね。(いい子は真似しちゃダメだよ!!)
とにかく、怒ったら怖いらしい。
「す、すみませんでした!!」
バッと立ち上がって頭を下げる。
シーンと静まり返る教室の中で、担任はクイッと赤いメガネを上げ、
「次からは気をつけるように。座りなさい。」
と言った。
(あ、あちゃー……。)
私はペコッと頭を下げて席に座る。後ろにいる沙也加が苦笑いを浮かべていた。
これは新学期早々、やっちゃったなぁ……。
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20××年4月10日。海斗が死ぬまで、あと127日。