花見と再会
それから3日後。3月18日。土曜日であるこの日、俺はなんと、朝3時から起きて40人分のお弁当を作っていた。
なぜこうなったかと言うと…それは2日前のこと。。
前日にクラスL○NEで花見の提案をしていた俺は、ふと返信がないか気になり、スマホの電源をつけた。
そしてL○NEのアイコンを見ると…そこには。79件のメールが届いていた。
「…はぁっ!?」
一旦頭がフリーズする。ちょ、ちょっと待て。確か俺のクラスメイトは…
慌てて卒業アルバムを探す。そして名前一覧を見てみたところ…やっぱりそこに書いてあったのは40人だった。
「い、一体何があったんだ…?」
開けるのがやや怖くなりながらも、俺はアイコンをタップし、クラスL○NEを表示した。
さて、怖いけど見ていくか。ええと。1番最初に返信してるのは…
「あ。」
そこにあったのは、早坂莉音という名前。それは当時のクラス委員長であり、…俺の初恋だった人だ。
髪は茶髪でセミロング。パッチリとしたタレ目気味の二重からは、溢れんばかりの優しさを感じる。
正直なところ、この初恋は入学した時に一目惚れをしたことがきっかけなのだが、まぁそれは置いとく。
ん?妹はって?それとこれは別だ。妹はもちろん可愛い。だが、早坂さんも可愛い。そう、めちゃくちゃ可愛い。しかも性格よくて勉強も運動もできるとかなんだよ。神かよ。
と、そんなことを考えつつも、俺はメッセージを読み進めていく。
「いいね!卒業してからまだ1回も会ってないし。桜の季節だからお花見Good( *ˊᵕˋ)私は参加できるよー。皆はどんな感じ?」
早坂さんの返事に続いて、沢山の返信がズラっと並んでいく。その返事は、なんと全員がYesだった。
「まじかよ…やった…」
俺の願いは、こんなにも素晴らしい形となって帰ってきた。
そんな事実に、俺は思わず感動してしまった。
だが、その次の文から書かれていたことに、俺は固まることしか出来なかった。
「ところでさ、当日はなんか食べもん用意すんのか?」
「するんじゃないの?わかんないけどー」
「え、でも誰がするの?個人個人?テイクアウトする?」
「えーー?そんなんつまんなくね?」
「じゃあ、誰か作る?」
この、次だ。
「あのさ。提案した天崎くんにお願いしちゃダメなのかな?」
…え?
「菜々香!それ、ナイスアイディア!」
…え??
「天崎、料理上手だしさ。確か東京住んでたはずだし、作ってきてもらえばいいんじゃね?笑笑」
…は?いや笑笑じゃねえよ。
「さんせー!ってことでそれでよろしく!天崎!」
…終わった。あいつらまじでふざけてんのか?
40人分の弁当作れとか殺す気かよ。これはもう店でなんか頼むしか…
「自分で作れよ?天崎!!!」
「草ww」
チッ
思わず舌打ちをしてしまった。はぁ。しかしこれは…
「大変なことになりそうだな」
俺は当日の朝のことを考え、早くも憂鬱な気分になるのだった。
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ということである。40人分の弁当を作るために、俺はわざわざ3時起きをして、料理をしていたのだ。
元々、料理をすること自体は好きな部類ではあるだが、それでもキツイものはキツイのである。それに…
「…こんなの間に合うわけねぇだろ。」
現在の時刻は午前10時。あと1時間ほどしたら家を出なくてはならないのだが、今できているのは25人分までだ。
「はぁぁぁ。…諦めるか。」
全員分作るのはやめよう。取り敢えず、作れるところまでは作ることにするか。そう考えた俺は料理に再び取り掛かり出した。
(ってか提案しただけでこの仕打ちは酷くね?)
と少々疑問を持ったがそれはスルーすることにした。それを気にしたら負けだ。うん。そして俺は、残りの1時間、みっちりお弁当作りに励んだのだった。
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そして、午後2時。たくさんの人で賑わう桜の名所[桜坂]にて、俺は元クラスメイトと顔を合わせていた。
「天崎!久しぶりだなぁ!」
バチンと強く背中を叩いてきたこいつは、中学生時代、俺の友人であった佐々木洋人である。
「いって…。ていうか佐々木…お前な、あれはないだろ。」
「ん?あれってなんだ?」
こいつ…すっとぼける気か。
「あれだよ!あの(自分で作れよ!)とか(笑笑)とかって文!あんなんのせいで俺がどれだけ苦しんだかわかってんのか!」
怒鳴る。俺の全身の怒りを込めて怒鳴る。その結果
「え?あぁアレマジでやったん?乙ww」
こうなった。
こ、こいつ…マジで1回ぶん殴ろうかな。
「で、そんなクソ真面目さんはお弁当作り終わったのかい?」
…イラッ。
「…終わりませんでしたけど?」
「うわ草ww 」
ふぅ。
「1回殴っていいか?」
「ごめん俺が悪かった許してくれ。」
変わり身が早すぎるがまぁいいだろう。
「で、お前何人分作ったん?」
ケロリと復活した佐々木がこう聞いてきたので、俺は普通に答える。
「32人分だけど?」
「はぁっ!?マジで!?」
めちゃめちゃビックリされた。いやなんでだよ。お前らが作れって言ったんだろ。
「な、なんか…お疲れ様…。」
凄く哀れみの目で見られた。マジでふざけてるの?
「んな事思うなら最初から思っとけってんだ。たくっ…」
はぁ。とため息をつく。と、その時
「あ、天崎くん!」
ピッシャァンと脳に雷が落ちる。
とてつもなく可愛らしいその声が、俺の耳を素早く貫通した。声の主はやはり…
「は、早坂さん」
俺の好きだった人が、こちらに駆け寄ってきていた。うん可愛い。やばい。またすきになるかもしれん。え?もう好きだろって?そんなん知るか。察しろ。
「今日は提案してくれてありがとう!おかげでこうやって皆で集まれたね!今まで1回もできてなかったからホントに嬉しい!ありがとうね!そ、それと…その…お弁当の、ことなんだけど…」
高いトーンから一転、気まずそうな雰囲気となる。
「あ、あぁ。それはいいよ。一応もう30ちょっとは作ってあるし。残りはどっかで買ってくれば…」
「え!?」
その瞬間、早坂さんは目を大きく見開いた。その瞳に、俺の僅かにニヤけた姿が映り込む。
ハッと気づいて口元を元に戻した。
早坂さんは特に気にした様子もなく、言葉を続けた。
「さ、30も作ってくれたの?あ、えっとじゃあ、もしかしてこれで足りるかな?」
そう言って早坂さんが渡してくれたのは、大きな重箱弁当3つだった。
「こ、これは…」
俺がそれに釘付けになっていると、早坂さんは恥ずかしそうに言った。
「その、皆の会話を今日見ちゃって。それで、天崎くん1人でお昼を作ることになってたから、わ、私も何かできないかなって思って。あんまり量は作れなかったけどね。その、やっぱり迷惑、だったかな?」
あ、あ、なんかもう、カワァ////
「め、迷惑なんかじゃぁ全然ないよ!むしろ助かった!ありがとう!」
若干焦りながらもそう答えた俺に、早坂さんは良かった!と言って最高の微笑みを見せた。
あぁ。俺、今日死ぬんかな…もう幸せ。と思ったけどそういえば死ねねぇわ。俺。完璧に忘れてた。
そんなこんなで、必要なものも全て揃った。これからだ。これから、俺の思い出作りが、始まる。
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「おぉ!花見か!いいなぁー。」
とハデスは呟く。冥界には桜など存在しないので、彼が花見をしたのは下界に降りた数千年前の事だった。
「ハデス様。いいから早くお仕事をなさってください。書類が山積みになっておられますよ?」
ルーガンにそう言われ、ハデスは仕方なく仕事を再開した。
(花見…明日にでも下界に行くか)
なんてことを考えながら。
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20××年3月18日。海斗が死ぬまで、あと150日。