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ブルーノート~宝塚南高校ジャズ研究会~  作者: 伊勢祐里
第一楽章「宝塚南高校ジャズ研究会」
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二幕 7話「控室」

 ゴールデンウィークは個人練習のためにと部室は開放されていた。部活へやってくる上級生はまちまち。三年生は受験勉強もあるだろうし、帰省や旅行など家の都合がある者もいる。練習の参加が個人の裁量に任されているが、その雰囲気はだれているというよりも、個人でしっかり活動日と休み日にメリハリを付けている印象だった。


 みなこは祖父母の家へ行った一日を除き、部活へしっかり顔を出した。休み明けにはオーディションが待っている。その緊張感と不安、受かりたいという欲望に突き動かされて、オーディション前日は、夜遅くまで大樹に教わったことを練習した。


 今回のオーディションに参加するのは一年生部員だけ。審査するのは、顧問の川上と部長、副部長の三人。全会一致で、オーディションに晴れて合格。ビッグバンドへの参加が決定する。


 オーディション当日、オーディションに関わらない部員は、吹奏楽部員のように廊下や空き教室で練習している者や自主的に休みにしている者もいた。この辺りも臨機応変、個人の裁量に任されているのだ。


「うぅ緊張する……」


 腹部を押さえて、めぐがうずくまった。奏がその背中を擦って上げている。少スタジオで待機しながら、自分の番が呼ばれるのを待つ。準備に手間取っているのか、集められた一年部員六人は、しばらく待たされていた。その間にすっかり部室に蔓延した緊張感は尋常ではない。みなこも緊張に飲み込まれないように、椅子に座りながらぐっと膝の上で手に力を込めた。


「みなこは自信あり?」


「なんで?」


 隣に座っていた航平がケロッとした顔で話しかけてきた。


「結構、練習してたやん」


「そりゃ練習してたけど、自信があるかと聞かれるとこと困る……」


「まぁそうやんな。俺やって選ばれたいけど、まだ人前で演奏できるレベルには達してない。けど、全力は出すつもりや」


 まだどことなく幼さの残る顔が大人っぽく真剣になった。あぁ、私の緊張をほぐすためだったのかな。そう思ったみなこの身体から力が抜けた。


 コツコツ、とドアがノックされてスタジオのドアが開いた。今日も毛先に赤いリボンをぶら下げたみちるがひょっこり顔を出した。


「それでオーディション始めるねー。まずは、トランペットの高橋くんから」


「はい!」


 航平がハッキリとした声で返事をする。その手には金色のトランペットが握られていた。



 *



 七海、めぐ、奏、という順にオーディションは進んでいった。オーディションの終わった部員は、小スタジオには戻らず近くの空き教室へ移動する。故に小スタジオには、みなこと佳奈の二人きりになった。


「次はどっちかな?」


 七海が大スタジオに行ってからすぐ、静寂に耐えきれなくなったみなこは、佳奈に話しかけた。


「どっちやろな」


 佳奈はこちらを見ることなく、淡々とした声で返す。首からぶら下がったストラップは全く揺れていない。


 オーディションに集中したい。そういう無言の合図なのかもしれない、とみなこは佳奈の凛とした横顔を見つめながら思った。きっと、彼女は自分なんかよりもずっと真剣に音楽をやっているのだろう。先輩と一緒に演奏したいだの、オーディションに受かりたいだの、彼女にとっては甘く。ステージの上で見事な演奏をして観客を魅了させる。そういう野心に燃えているのかもしれない。


 それはあくまで、楽器が上手く向上心のある人への印象に過ぎないが、佳奈から感じる雰囲気や態度はまさしくそれと言える。


「はい、それじゃ次はみなこちゃんねー」


 考えに耽っていたみなこの鼓膜を、優しいみちるの声が揺らした。ハッ、と我に返り、みなこは少し上ずった返事をする。その恥ずかしさからから、身体に変な力が入った。これではいけないと、ふーっと息を大きく吐く。


「大丈夫、緊張せんでええからね」


 いつも通りのみちるの表情を見て、みなこの身体からスッと無駄な力が抜けた。


「お願いします!」


 ハッキリと意気込みを口にして、みなこはスタンドに掛けていたギターを手に取り、大スタジオへ向かった。

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