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ケイナ  作者: 一水 けんせい
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第十五話 コピー

―― 首都『オリオスグラン』に住居を借り、拠点とすること数ヶ月……


ある晩、ケイナはトイレに起き寝ぼけたまま自分の部屋を間違えてケイゴの部屋に入ってしまう。ケイナは寝ぼけながらも自分の部屋とは違う事に気付く。ここはケイゴの部屋だ。


小さい六畳くらいのスペースだが、家を借りた時ケイゴがガンとしてこの部屋の利用を主張した部屋だ、元々ドアも無く、この家を借り各自が自分の部屋を決めた時にケイゴが部屋の入り口にカーテンを付けて、タンスとベッドくらいしか無い部屋だ。


しかし、ベッドで寝ているはずのケイゴの姿が無かった。


「……ケイゴ ケイゴ 何処じゃ…」


ケイナはまだ寝ぼけていたが徐々に頭が冴えてくる。ケイナは、そのまま玄関に行くと小さなサンダルを履き、表に出てケイゴが居ないか周りを見渡す。ケイナは嫌な胸騒ぎを感じた。目を瞑り集中して、神経を研ぎ澄ます……


ケイナは元々『フェンリル』と人間から呼ばれ、恐れられてきたオオカミ……数百年を生き、独りで『隠遁の森』で静かに暮らしていたがケイゴと出会い、独りでいる寂しさと辛さからケイゴの旅に着いて来た。


『嗅覚』による探知は然ることながら、魔力を持つケイナにとってケイゴの魔力を感じ取る事は造作も無い。探知範囲も『オリオスグラン』の広さなら漏れることなく網羅する範囲。


「……どうしたの?…」

異変に気付いたテレジアが玄関にきた。


「テレジア……ケイゴがいないんじゃ……」

「……いないって 部屋を抜け出して飲みに行ってるんじゃない?」

「……違う 違うんじゃ この町にケイゴがおらぬのじゃ……」


そう言ってケイナはテレジアの方を振り向いた…今にも泣きそうな顔をしている。


「……とりあえず家の中に入りましょう ここで待っていても風邪ひいちゃうわ」


この国『オリビニス公国』に四季はあるのだが、はっきりと認識出来る季節の変わり目は、わかりずらく『オリビニス公国』より北の国『サンパナ共和国』の北部に行かないと、四季の変わり目を感じるのは難しいと言われる。今の季節は『オリビニス公国』の四季で例えると『冬』に入ったとされ、夜になるとひんやりとした空気と風が特徴で、この時期になると風邪をひく者が増えるとされていた。


テレジアはケイナの手を引き、家に上がると台所の椅子にケイナを座らせた。


「……ちょっと待っててね 今ミルクを温めるからね」

「……」

「だ 大丈夫よ…… ケイゴは必ず帰ってくるから! ケイゴが何も言わないであたし達から離れていくと思う? そんな事無いでしょ ね? ケイナちゃん」

「……でも でも」

「大丈夫…… ちゃんと戻ってくるわ 安心なさい……」


声を出し泣きそうになるのを我慢しているケイナを、テレジアはしゃがんでケイナをやさしく抱き包んだ。


―― その頃、ケイゴは……

魔法陣で元の世界に戻り、報告書を書いていた。口頭で用務員の長島に、現状の報告と今後の予定を言って聞かせる。すでに、半年契約から一年契約に更新していたケイゴだったが、三十日に一度しか帰ってこれないシステムに不満を感じるケイゴは、報告書を書きながら長島に尋ねる。


「なあ長島さん 三十日に一度しか帰ってこれないって なんとかならないのか?」

「ならんなあ……それは わしも感じておった 関係者に色々聞いたが指輪を新規に作り出して調整する案も出ておったが それっきりじゃ ガハハハ」

「……それっきりか 大変なんだぜ? 現状の『異世界』生活で どれだけ目を盗んでこっちに帰って来てると思って はあ…長島さんに言ってもしょうがねえか……」

「ガハハハ そうじゃな わしに言ってもどうする事もできん なんせ ケイゴ自身一緒に暮らす選択をしたんだろ? やるのう! ガハハハ しかし 一度会ってみたいのう その娘と『フェンリル』とやらに ふっ ふふ ガハハハハ!」


長島は、ソファーに腰掛けウイスキーを飲んでいる。


「呑気でいいぜ 長島さんは まったく…… しかしこっちは寒いなあ…」

「今月末は降るそうだ これから冬本番だのう… ケイゴ 今回は何日か泊まっていくのか?」 

「無理だな… なんせ皆が寝てる間にこっちに来たんだ 何日も帰らなかったら大騒ぎだろうな…」

「ふむ……ところで今後の予定はどうするんだ?」

「さっきも言ったとおり 遺跡の再調査がメインだと思うけど…どうして?」

「ふむ……今の国を全て調査したら 別の国に行く予定は無いのか?」

「別の国? 簡単には行けないと聞いてるけどな……何でも『イセ』とかいう国が大陸全ての国に不可侵条約させて なんたらかんたらって…良く覚えてないが勝手に出入りできないらしい」

「……『イセ』か…」


そう言うと長島は、引き出しの中から同じ指輪をケイゴに預けた。

「なにこれ 指輪じゃん?」

「そいつを『コピー』してくれんか 向こうの世界に着いたら指に嵌めてくれ」

「なるほど……んで来月帰ってきたら『コピー』した指輪を返せば良いって事か でも 誰が使うんだ?」

「……いや 念のためじゃ『コピー』した指輪をこっちで預かっておけば 何か

あってもこっちから行けるからのう」

「わかった あっちに着いたら嵌めとくよ それじゃ俺行くけど 預けた金は銀行に振り込んどいてくれよな あと由佳かお袋から電話来たら よろしく!」

「……わかった やっといてやるわ あ 貰いもんだが これもっていけ」


長島は食器棚の下から『ロールケーキ』を取り出しケイゴに渡した。


「いいのかよ?」

「かまわん 娘さん達に食わせてやれ」

「ああ! サンキュー 長島さん 出してくれ!」


そう言うとケイゴは縦長の『ロッカー』に入り込んだ。


「あっ…相変わらず キツキツだなおい…コレ」


(……『イセ』か 久しいのう…… 老けたであろうな アヤメも…… わしの出番がこなきゃいいのだがな……)

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