第十四話 契約完了
「ケイゴさん 彼がフドウです」
「こんにちは」
「はじめまして フドウです 話はハインツさんから聞いています どうぞ中を拝見して下さい」
フドウは小柄な男ではあるが、がっしりとした体つきでシャツにスラックスのようなズボンを穿いていた。フドウは十個くらいついている鍵の束から一本取り出し鍵を開けた。
「さっ 皆さん どうぞ中へ」
中に入ると一階は二十畳くらいあるスペースにトイレ、風呂、台所が設置されていて家の中で釜を焚くタイプの作りになっていた。台所には竈が二つ並んで設置されている。二階には広間と小部屋が二つ仕切られていた。
「ここでいくらになりますか?」
「一ケ月 金貨七枚です 契約は一ケ月から受けています。」
(これで金貨七枚…七万円って安くないか? 焦ることは無い他も見てみよう)
「テレジア ここどうだ?」
「いいわね! 上の仕切りが気に入ったわ 寝るときや着替える時だけ部屋を使って 他は広間でみんなでいるの うん! いいんじゃない」
テレジアは気に入ったようだ。
「他もお願いできますか? とりあえず見れる物件はみんな見たいですね」
「わかりました 次を案内します」
俺達は次の物件に移動した。中心部からは結構離れたが広い平屋の物件だ。外観は、さっきの物に比べると数段落ちる、レンガではなく石をそのまま使っている部分が多く作りが雑だ。外には風呂釜がある。どうやらこっちの風呂は表に出て風呂を焚かないといけないようだ。中に案内されると広さは十分だった。仕切りも大きい部屋が二つと小部屋が二つに区切られていた。竈は中で焚くタイプ。台所には飲料用にも使える小さめの井戸がある、かなり場所を取ってはいるがポイントは高い。
居間は突き当たりに暖炉が設置されていた。フドウに聞くと必要ならば表に小屋を建て馬を飼うのも構わないそうだ。俺は小部屋も隅々見渡してみた。
すると、小部屋に使われている石の一つに魔法陣が書かれていた。俺が指輪を翳すと
ズッズズズ
魔法陣の上に数字の『17』十七が浮かび上がった。間違いない!
俺は、みんなのところに戻る前にショルダーポーチから薄鉄板を取り出し魔法陣を隠した。戻ってフドウに尋ねる。
「フドウさん ここはどれくらい前からあるんですか?」
「私の父が管理していた時からですから……相当になりますね ハハハ」
「一ケ月いくらなんでしょう? 」
「これそのものは家の物ですし ハインツさんには日頃お世話になっていますので金貨三枚でよろしいですよ」
「契約します! 一年契約出来ますか?」
「えっ? よろしいのですか? 物件はまだ残っていますよ?」
「いいえ ここが気に入りました 駄目でしょうか?」
「いえいえ 空いてる物件です ありがとうございます では 必要な書類を持ってきますから あっ これ鍵です 一度戻ってこちらに来ますので少し時間を下さい」
「はい ありがとうございます」
フドウはハインツの馬を借り書類を取りに戻った。
「ケイゴさん 良かったんですか? 確かに井戸もあって金貨三枚ですから安す過ぎるくらいですけど」
「ええ ここがいいんです」
(ここにを借りてしまえば皆が夜寝てる間に戻って帰れるしな…最高の物件だ!)
「ケイゴちょっと……」
「どうした?」
「ちょっと いきなりここにするってどういう事?」
「えっ?」
(しまった!とりあえずテレジアに言うべきだったか……)
「少しくらい意見聞いてもいいんじゃない?」
(まったな…面倒臭いパターンだ…こりゃ、何時もの手でなんとかするか……)
「ああ すまなかった 相談しなかったのは悪かったよ でもテレジアは俺に着いて来てくれると思っていたからさ ごめんな」
「まぁ そんなに言うなら仕方ないかしら… それに…ケイゴが着いて来いって言うなら やぶさかじゃないのよ…」
(やぶさかじゃないのかよ……こんな時ばっか顔赤くして…)
「でも 庭もあるし必要と思ったら小屋を建て馬も飼えるしな」
「まあ そうねえ 広さと庭があるのがいいわね」
「ケイナ しばらくこの家で住もう 今日からここがケイナの家だ」
「わらわの家か…」
ケイナは腰に腕を置き小さな身体で大きな家を見上げた。
「ケイゴさん 私が薪なんか売っているところを教えますよ」
「はい しばらくお願いします」
「家具とか買わないとね なんか楽しみね! ベッドや家具 あの宿に泊まって
ドレッサーも欲しくなったわ」
テレジアとケイナは、はしゃいでいた。俺も魔法陣を見つけ、はしゃぎたいのは山々だが、これだけはバレる訳にはいかない。
テレジアが、お茶の準備をしてみんなで飲んでるとフドウが帰ってきた。
「お待たせしました ではこちらとこちらに名前を書いて下さい。」
「保証人は えっと……問題無いでしょ ハインツさんと知り合いなのですからあまりにも借り手が見つからなかったので取り壊そうと家族で相談していたところだったんですよ ハハハ」
「取り壊す?(あっ危なかった!)」
「ええ ケイゴさんのおかげで助かりましたよ!」
俺は契約書にサインし、前払いで白金貨三枚と金貨六枚をフドウに渡し領収書を受け取って契約を完了した。俺達はすぐにカインと会う事にした。
「ケイゴさん 昨日のパン屋ありましたよね あそこにとりあえずカインを連れてきます お茶でも飲んで待っていて下さい」
俺達は昨日の店でカインを待つ事にした。すると、テレジアがお茶を飲みながら家に必要な物を言い出した。
「ねえ 家具とか見に行きましょうよ ベッドとタンスなんかはすぐ欲しいわね あっ ドレッサーは何日かあとでもいいわ!」
「……ニコニコしているところ悪いけど ドレッサーなんか自分で買えよな」
「なんでよ! あたしやケイナちゃんは小汚い格好でもいいんですか?」
「そうは言ってないだろ 今までだってちゃんとやってこれたんだし…」
「ケイゴ…… あたしはいいのよ ケイナちゃんに…そんな惨めな格好させて本当にいいの? 何度も言うけどあたしはい……」
「ああ もうわかったわかった 買っていいよ 買って下さい……」
テレジアの講釈を長々聞いてると、おかしくなりそうになったので白金貨二枚預けて黙らせた。二人は顔を合わせニヤリとしていた……しかも、物凄く悪い顔だった。
正直、金はまだまだある『最新層』の報酬で家一軒買えるほどの金を持っている。しかし、もしもの時とかを考えると中々使えないものだ。俺は生粋の『貧乏性』なのかもしれない……