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ケイナ  作者: 一水 けんせい
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第九話 首都

こうして『隠遁の森』の再調査を終えた俺達は、ようやく首都『オリオスグラン』に到着した。他の町と違い設備が整っていて清潔感を感じる。街灯も町のあちらこちらに設置されていた。


「着きました 小さくてお恥ずかしいのですが ここが我が家です」

ハインツはそう言ったが、かなり大きな家だ。家の裏には馬小屋もあり馬一頭にロバが一頭飼われている。ハインツは再調査に使った荷台とロバを切り離すと小屋に入れ代わりに馬を出す。


「さあ あがって お茶でも飲みましょう 疲れたでしょう」

そう言うと五段くらいの階段を昇り玄関で少し大きめな声を出した。


「おーい 帰ったよ オレーシャ オレーシャいないか?」

「お父さん! おかえり」

「おかえり!」

「おお 今帰ったよ ちゃんとお母さんの言う事聞いてたか?」

「うん! 聞いてたよ」

「聞いてた!」

ハインツの子供だろう、ハインツは跪いて二人を抱え頭を撫でる。


「そうか いい子だ お母さんは?」

「今 おばあちゃんの部屋でふとんを変えてるよ」

「そうか…… 息子のフィリップ九歳と娘のパーシャ七歳です ご挨拶しなさい」

「こんにちは! フィリップです」

「こんにちは…パーシャです」

子供達は俺達に挨拶をする。きちんと教育されている、いい子達だ。息子の方はハキハキしてるが娘の方はまだ、小さいからか少しだけモジモジしている。


「やあ 俺はケイゴだ よろしくな」

「こんにちは! 偉いわね ちゃんとご挨拶できて! テレジアよ」

「……」

ケイナは無視してペロペロキャンディーを舐めている。


テレジアがケイナの耳元で

「ケイナちゃん 挨拶しましょ 挨拶をする事は当たり前の事よ?」


するとケイナは黙ってテレジアを見つめた後、正面の子供達に


「…わらわは ケイナじゃ」


初対面の人間には、まだ普通には接せないようだ 子供達は面食らった顔をしてた。


「ケイゴさん 少し座って待っていてください 妻を呼んできます」

そう言うとハインツは、おばあちゃんの部屋だろうか奥に向かって歩いていく。子供達も、その後をついて行った。俺達は居間の椅子に座り待つ事にする。


「ねえケイゴ 今晩の宿探さないとね」

「ああ そうだな また安いところに探して泊まろう」

「あたし お風呂に入りたいわ お風呂」

「ただなあ……風呂が完備されている宿ってあるのか?」

「ここは『オリオスグラン』よ? 首都よ?首都! 貴族も政府関係者もいるのに無い方がおかしいわ!」

「……んまあ ハインツさんに後で聞いてみようぜ…」

「なあ ケイゴ 前からちいと気になっておったんじゃが 風呂とはなんじゃ?たまにテレジアも風呂風呂 言っておるがシャワーとやらでは駄目なのか?」

「ああ ケイナはまだ暖かい風呂に入った事無かったよな 暖かい湯が入った風呂に浸かると 凄く気持ちいいんだよ」

「そうなのよ! ケイナちゃん! あれに入ったらもう辞められないわ!」

「ああ 極楽だよ 極楽…それを考えると田舎暮らしがいいんだよなあ」

「確かに そうなのよねえ 他の町で宿に お風呂なんて考えられないしね 実現できても手間暇がかかりすぎるわ」

「……入ってみたいのう 暖かい湯に…」

「そうね! 入れるところ探してみましょう」

「うん」

風呂の話をしているとハインツが戻ってきた。後ろにいるのは奥さんだな。


「ケイゴさん 妻のオレーシャです」

「はじめまして 妻のオレーシャです 主人がお世話になっています」

「いいえ 世話になったのは俺達の方ですよ ケイゴです」

「こんにちは! あたしはテレジアです そうなんですよ! お世話になってるのはケイゴなんです てへへっ」

「……」


黙っているケイナにテレジアが『さっき教えたよね』と言わんばかりにケイナの両肩にやさしく手を置き 囁くようケイナの名前を呼んだ。


「ケイナちゃん」

ケイナは真っ直ぐハインツの妻オレーシャを見て挨拶?をした。


「…ケイナ」

「かわいい ケイナちゃんね よろしくね」

オレーシャはやさしくケイナに答えて席を立ち、お茶を用意した。


ケイナは振り返り、テレジアを見上げて少しだけ笑みを零すとテレジアがニッコリと目を細めてケイナを見つめた。


「先程少しだけ話が聞こえたんですが お湯のお風呂に入りたいとかって?」

「ええ 宿でお湯の風呂が完備されてるところなんてあります?」

「ありますよ ほとんどの宿は完備されています」

「えええっ! 本当ですか?」

「……は はい…」

「ああーん! うれしいわ!ケイナちゃんお湯のお風呂に入れるわよ!」

「うんうん!お風呂入ろう!」

二人共、目がビカビカ血走っている……


「……高いんでしょ?」

「…まあ 他の町の宿よりは若干ですが……スガークで泊まった『ミカヅキ』あそこはいくらでした?」

「三人で雑魚寝してた部屋ですよね? あそこは一泊 銀貨七枚でしたね」

「……ちょっとした宿屋ならその三倍と考えといて下さい……」

「一日で金貨二枚! えっ? 本当ですか?」

「ええ…やはり首都という事もあり あまり粗末な建物は相応しくないと安っぽい建物は全て解体されて建て直しされているのです 安い宿で金貨一枚と銀貨六枚といったところでしょうね……」

「二~三日はいいとしても長期の滞在は無理かな……ところで部屋を貸してくれる業者とかっているんですか? もちろん 安い部屋で…ちょっと前から家を借りようと思っていたんですよ…宿を借りるより安いのならその方が良いのかと」


テレジアは黙ってお茶を飲み、ケイナは相変わらずペロペロキャンディーをぺろっていた…… 


「わかりました 明日でよかったら私の知人で 家を売ったり貸してる者がいるので話してみますか?」

「お願いします 拠点は今後 ここに移そうかと考えているんです」

「ほう……どうしてですか?」

「次の予定は『メザーレイク』の探索ですが 『アイヅ遺跡』『東風洞』も探索候補で『オリオスグラン』の北が今後の探索予定なんですよ」

「なるほど ここを拠点にしとけば移動が楽ですね」

「ええ 『トヨスティーク』もいいんですが 移動がね……」

「わかりました 私もお手伝いしますよ 何も住む場所は中心地から離れてもいいんですよね?」

「ええ! もちろん」


ハインツは部屋探しの約束をしてくれた。


「ケイゴさん 私はこれからカインの所に向かおうと思いますが ケイゴさん達も一緒に行きますか? 今日会えるかは分かりませんが」

「そうですね 宿を見つけないといけないし 出来たら近くまで案内してくれませんか?」

「かまいませんが 良かったら今晩は家に泊まったらどうですか?」

「いや 悪いよハインツさん ハインツさんだって家族水入らずで一緒に居たいでしょう」

「私はかまいませんよ」

「まあ 俺達は何時もの様に宿で泊まりますから 安心して疲れを取って下さい」

「すみません 皆さん」

ハインツは軽く頭を下げた。


「そういえば子供達はどうしたの?」

テレジアがハインツに尋ねた。


「お客さんが居るときは おばあちゃんのところに行くように言ってるんです 大抵は仕事の話しか 私の家に人は訪ねてきませんからね…家の母も子供達を可愛がってくれるので助かっています……」

「おばあちゃんはこっちにこないの? 挨拶しないと」

「……いえ…母はもう自力では ほとんど動けないんですよ……」

「……そうなんだ…」

「ええ……でもここは医者もいますし 往診にも来てくれるので 他の町に比べたら全然ましですよ…」

「大変ですね…」

「しょうがない事ですよ……誰もが老いますからね…」


俺達は、お茶を飲み終えるとハインツの家を後にした。

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