第98話 二人の約束
翌朝、みんなでお店に向かう時にカミラの様子を見ていたんだけど、体調は良くなったみたいだ。顔色は良くなっているし、いつもの雰囲気に戻っている。やれやれ、もしかしたら今まではこれに気付けて無かったかもしれないのかと思うと、これからはこういった所にもちゃんと目を向けないとなと考えを改める。
みんな良い子過ぎて人の事は助けるのに自分の事は自分で何とかしようとするんだよね。もうこれからはそうはせないよ?
「あれ? カミラちゃん今日は何かご機嫌だね?」
「……少し、良い事が」
「そうなの? あれ? 何かあったかな?」
「……秘密」
ご機嫌だったんだ……分からなかった。いつもの無表情に見えたんだけどな、言ってる側からまだまだだと痛感させられる。
「……あぅ」
カミラと一瞬だけ目が合う。そして逸らされた。うーん、これは……ちょっと恥ずかしがってる? あ、もしかして昨日の事……。この三人は僕がレミリアを治療した事を知っている。だからカミラも、昨日のアレが治療だったって気付いてるのかな?
「カミラちゃんどうしたんですか?」
「……なんでも、ない」
……気付いてるっぽいな。この三人にも詳しく話すとお互いリスクになるだけだから、あの日の事は秘密だよ、としか言えなかったんだけど……。カミラとレミリアは察して、内容に気付いてるかもしれない。
まぁ良いんだけどね。そのせいで何かに巻き込みさえしなければ大丈夫なんだから。
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「……あの、昨日」
「ん、カミラか。どうしたの?」
「……ありがと」
「カミラが元気になってくれたなら良かったよ」
「あぅ……」
いつもの様にくしゃくしゃと髪をかき回す。でも今日は何かちょっと嬉しそうだ。ふふ、笑ってる。
「……本当は、しんどかった」
「だよね、普通に風邪引いてたよ?」
「……次からは、言う」
「そうしてくれると、僕も嬉しいよ」
トテトテと二歩ほど更に近づいて、頭を撫でられているまま、僕に抱きついてきたカミラ。思ったよりしんどかったみたいだね。元気になれて嬉しいのかな?
「……たまには」
「アリ、だね」
「……うん」
全く、普段は飄々としてるのに、時々こうやってしっかり甘えてくるからなぁ。でも今回は店の為に自分を抑えて頑張ってくれてたしね、ちょっと甘やかしたって……良いよね。
「わっ」
僕は撫でる手を止めて、そのままカミラを抱きしめた。そして、お互い耳元で小さく会話する。
「無理しなくて良いからね? いつも頑張ってくれてて凄く感謝してるんだから。しんどい時くらいはちゃんと頼ってくれよ?」
「……うん」
「無理しちゃダメだからな?」
「……分かった」
「いつもありがとね」
「……私も、ありがと」
短くやり取りを終えるとパッと離れるカミラ。そして顔を両手でゴシゴシして、クルリと一回転。
「……仕事に、戻る」
「うん、よろしくね」
いつものカミラだ。きっと、すれ違っても目も合わせてくれない、いつものカミラに戻ったんだろう。本当に、何というか……カミラっぽいね。