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第9話 二人の目標

「さて、今日は予約してた例の奴を引き取って帰ろうか」

「はい! 昨日からずーっと楽しみにしてました!」


 今日も今日とて仕事仕事。だけど今日は少しだけ特別、終わってしまえばちょっとした楽しみが待っている。


「昨日はごめんね、まさか売り切れてるとは思わなくてさ」

「人気のパン屋さんですからね! そうこなくっちゃです!」

「そういうものなの?」

「それに楽しみは少し先にあった方が良いんですよ?」

「ん? それは何でかな?」

「今日の仕事が頑張れるからです!」

「……そりゃそうだ」


 実は昨日のパン屋さん、訪れた時点で閉店時間を待たずして商品は売り切れ御免の閉店状態。片付けをしていた店長に今日の分として予約をお願いする事になったのだ。まぁ予約で買えたから良いものの、昨日は悪い事をした。その分今日は……。


「レミリアは何か好きな飲み物とかある?」

「え? ……良いのでふか?」

「噛んでる噛んでる」

「あぅぅ……良いのですか?」

「良いよ、何かあるの?」

「その……ミルクを……」

「了解」

「良いんですか!?」


 尻尾をパタパタフサフサと揺らして身体全体で喜びを表現するレミリア。牛乳でこれ程の反応を貰えるなら安いにも程がある。……たまに買ってあげなくちゃね。さて、片付いた事だしそろそろ帰ろうか。




 _______





「はぅぅフワフワだぁぁ……」

「た、確かに……」


 帰宅後、食卓に買ってきたパンを並べて牛乳で乾杯。そしてパンを一口かじって……この表情。けれど……これは仕方ないなぁ、めちゃくちゃ美味しいや。


「こっちのパンは……あ。えっと……」

「好きなのを食べて良いんだよ?」

「良いんですか!?」

「い、良いよ?」


 全然問題のない事をいちいち確認してくれる控え目なレミリア。自身が奴隷である事をちゃんと弁えてるし、主人を立ててくれるし、売り上げに貢献してくれて……尚且つこんなにも可愛い。この出会いには本当に感謝しかない。


「あぁー、美味しい……。このパンおね……あっ」


 何かを言いかけて、ふと我に返って踏み止まる。そして……ポロポロと泣き始めてしまった。えぇ……どうしたの?


「大丈夫? 何かあった?」

「あの……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「……大丈夫だから」


 僕は席を立ち、そっとレミリアを抱きしめる。突然泣き始めるなんて始めてで実はかなり動揺している。何があったんだろ。


「……大丈夫?」

「は……い。ごめんなさい」

「謝らなくていいから。どうしたの?」

「えっと……あの……」

「大丈夫、怒らないから」

「……こ、このパン、お姉ちゃんが好きだろうなって思っちゃって……そ、それで、お、お父さんも、おか、お母さんも……ふぇぇぇん、あああ、あ、あの、あの……ご、ごめ……」

「大丈夫だから……。そっか、お姉ちゃんやみんなの事。本当は気になってたけど、言わずにいてくれたんだね」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「大丈夫だから」


 小さな身体を抱き寄せて、泣き止んで落ち着くまで背中をさすって。……小さな背中だなぁ。こんな小さな身体で、色んな事を抱えながら……あ。


 そっか、不安だったからか。


 だから捨てられない様に頑張って、売り上げにも貢献して、考えれる事を考えて、有能である事を示して。……そうだよね、それでも主人と奴隷の関係だから……不安は不安か。


「レミリア」

「ひっく、ひっく……、は、はぃ……」

「いつか……さ」

「……え?」

「もっとお金が貯まって、余裕が出来て、人手が欲しくなったその時はさ」

「……はい」

「お姉ちゃん、買えると良いね」

「え!?」


 そうだ、どうせやるなら目標があるのも悪くない。まずはお店を軌道に乗せて、もっともっと売り上げて。


 一生懸命働いて。


 姉妹丸ごと、お買い上げだ。

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