第86話 マーベルさんへのお誘い
「いらっしゃいませ、順番にお待ちいただければ順次お声かけさせて頂きます!」
「レーミリーアちゃーん!」
「あっ! マーベルさん、こんばんわ!」
「今日も来たわよー! 今日はね、ちょっと可愛い服を見つけて……じゅるり」
「……狙いが、危険」
「ハッ!? しまった、一瞬気を失ってたわ」
「……失ったのは、正気」
「ふふ、それで服が何かあったのですか?」
「じゃじゃーん! これなの!」
「か、可愛い……」
入り口の方から聞こえる露骨なマーベルさん出現の気配、絶対来てるよあの人。こう……空気が変わるからね、すぐ分かるよね。
「でしょ!? これ着て欲しいなーって!」
「わ、私にでふか?」
「噛んでる……あぁ……こんな幸せな瞬間……切り取って永久保存したい……」
「あぅぅ、癖なんです……」
「ふふ、イジメられてる顔も可愛いけど、やっぱこっちよね! はい、プレゼント!」
「良いんですか!?」
今日も当然の様に手土産持参で現れるマーベルさん。何度も本人に尋ねているが、これが生き甲斐なの……後生だから止めないで! と懇願されてしまっては何も言えない。何せ貰ってるレミリアが嬉しそうなんだから。
「いやー今日も最高の笑顔だったわ……。ね、院長さん?」
「僕の位置からは見えてませんから」
「あら、損したわね」
「ところでマーベルさん、お話……」
「レミリアちゃんのレンタル!?」
「違います」
即答。秒速勘違いにも程がある。
「えー何の話? ツマンナイ話はいらないんだけど」
「今度遊びに行きません? レミリアと二人で出かける予定があったのですが、もしよかったらマー……」
「行くわ!! 是非行かせて貰うわ!!」
「あ、えっと……」
「いつなの!?」
「あの……次の休診日なのですが」
「予定はキャンセルね!!」
えぇ……予定空いてなかったのか。でもこれ大丈夫なのかな……大丈夫か。だってこんなに。
「もうすぐじゃない! 何それすっごく嬉しい! えー何着て行こうかなー、どこ行くの? 何しに行くの? 何時から? いつまで行くの? まさか泊まり!?」
「日帰りです」
食い付きが良いからね……。
凄い目をキラキラさせながら独り言の様にあーでもないこーでもないと凄まじい速さで妄想が展開されていっているみたい。
この人当日までに何回の予行的な想像をするんだろ……。めちゃくちゃお出かけしてそうだな。
やれやれ、楽しみは楽しみだけど。
ちょっと心配かなー。
カミラが居ないのが悔やまれる……。