第75話 真実も方便
「うわぁー、こ、これ……」
「えぇ、お好きな物を食べて下さいまし」
「良いんですか!?」
「……これは、ヤバイ」
「凄い量だよね」
クラリスさんに案内され、通された部屋には既に沢山の食べ物が並ぶ、立食パーティの様な準備がされていた。しかもテーブルの差が低い。明らかにレミリアたちを気遣った内容だ。こういう手際は流石としか言いようがない。
「ではナビリス様はこちらに」
「……え?」
クラリスさんに手を引かれ、僕だけ別室に移動。
あ、そういう事?
「皆様には時間を楽しんで頂けるよう、準備はしておきました。ナビリス様は先にこちらで。この部屋には人払いも済ませている上で、会話はその外に出ない、我が家の会談用の部屋なのでご心配なく」
「……配慮頂き感謝します。きっと彼女たちも凄く喜んでいると思いますので」
「それは良かったですわ」
成る程、あの料理も場所の気遣いもすべてはこの時の為、か。結構したたかだよね、クラリスさん。
「では、あの日成人薬を得られなければ生き長らえる事が叶わなかったレミリアさんがこうして健在の理由、お聞かせ頂いても?」
これには、答えを用意してきた。全ては話せない。だから……方便としてこの体で行こうと思っている。
「あの日、僕は特異魔法の能力者として、ステージを一つ上に上がりました。ほぼそれが全てです」
「な!? 特異魔法が成長を……。そ、それで内容は……」
「元々は【腹痛】だと思っていた能力なのですが、その実かなり【調腹】に近い能力だったようで。それが範囲を広げ、身体の不備やバランスも整える能力に昇華した、という訳です」
「それは……成る程。流石は特異魔法としか言いようの無い能力ですわね。大っぴらにしてしまえば恐らくまともな生活は困難、成る程納得ですわ。獣人の固有病をも跳ね飛ばす特異魔法、これはかなり強力な能力ですわね」
「そういう訳なんです」
そう、この説明でいけば不備もなく、不自然もなく、事実のみで隠す事が出来る。嘘はつき続けると必ず不備が出てきてしまうが、これなら嘘にはならない。それに僕は、本当にこの用途で使っているのだから……これから何かを察知される危険もないだろう。
「どこまで治せるのですか?」
「内部構造的な能力なので、肌や筋肉の物理的損傷に関しては干渉出来ません。あくまでも整える能力ですので」
「成る程、という事は病であれば?」
「……治せるでしょうね」
「十分強力な能力ですわ。私、知り合いに特異魔法の能力はおりませんでしたが、やはり普通のルールは通用しないレベルの物なのですね」
「ちょっと前までは普通のルールにすら通用しない物だったのですがね」
「ふふ、確かにそうですわね」
その後その辺りに関してもう少し聞かれた所で、僕も立食パーティの場へと帰還した。出遅れたからみんなもう食べ終わっているのかと思ったけれど、なんて事は無かったよ。
まだみんなご飯中だった、流石だね。