第74話 豪邸への招待
「うわぁ……これ全部おうちなの?」
「……端が、見えない」
目をキラキラさせながら建物を見るカミラとプラム。二人とも元々家が無かった所からの今だから、僕よりも更に感慨深いものがらあるだろうなぁ。僕はまだ軍にいた頃にこれより凄まじい建造物は見ているし、何ならここも二度目だからね。みんなより少しだけ耐性があるよ、全然慣れないけどね。
「ご主人様、本当に私たちもご一緒させて頂いて大丈夫なのですか?」
「大丈夫、ちゃんと確認してるから。みんなを招待したいってクラリスさんは言ってたよ?」
「……何だか有難い事が立て続けに起こりすぎて普通がわからなくなってきてしまいます」
「そうだよね、僕も去年の今頃に、まさか一年後こんな事になってるなんて……思わなかったなぁ」
普通に、ただ普通に。今まではそう生きてきた。けれどこうして何かを始めて、そしてレミリアたちと出会って。助けられながらも共に進んで。
そうしていくうちに思い知らされた。僕の持つ普通がどれ程ぬるく甘かったのかを。こんなレベルを普通と言っていたらレミリアたちを護れない。だから僕は学ばなければならない。
沢山の失敗からちゃんと学んで、みんなを護れる力と考え方を。これが今後の普通で、最低ラインだ。
「皆様お待たせ致しました。準備が整いましたので、こちらへお進み下さい」
綺麗にビシッと服を決めている執事さんの様な人に促されて歩き始める僕たち。今回は受付をスルー。何故なら医院の前まで馬車の出迎えがあり、それに乗ったままここに入っているからだ。
送迎付きのご招待とは……本当にドキドキするね。
執事さんの案内で進み、建物の中へ。そして少し進んで扉の前、そこを開けると……そこにはクラリスさんが。……めちゃくちゃ綺麗だな。これは……緊張するぞ。
「本日はようこそ。お越し下さりありがとうございます。道中粗相はありませんでしたか?」
「と、とんでもない……。とても良くして頂いて……」
身が……引き締まる。というかとにかく緊張する。こんな大きな建物で、こんな綺麗な装飾の部屋の中、こんな綺麗な方を目の前に……。痛っ!?
「……気を、確かに」
カミラにお尻をつねられた……。まぁ、そうだよね。僕が浮かれてたら何も始まらないか。場所はともかく目の前にいるのクラリスさんだ。いつもお話して悪ふざけをし合う様なクラリスさんだ。
そう考えると……緊張もしないな。助かるよカミラ。
「ふふ、さて。それではご案内致しますわ」
そう言ってくれるクラリスさんは、分かっていても優雅で上品で綺麗で。僕がこの場にいる事が兎に角不釣り合いで。あの日店の前で悪態をついていた彼女のダメな姿を思い出せなければ緊張でまともに動けなかっただろう。……あの日のアレは未だにたまにネタにするからね。
あのクラリスさんがらいるから、今はリラックスできる。
不思議な関係だよね。