第73話 事の説明機会
「いらっしゃいませ、順番にお待ちいただければ順次お声かけさせて頂きます!」
「あら……レミリアさん。お加減はよろしくって?」
「あっ! クラリスさん! お陰様で何とか復帰出来ました、沢山美味しいご飯を頂いて本当にありがとうございます!」
「……最高に、美味かった」
「あらカミラさんまで。喜んで頂けたなら幸いですわ」
「……肉が、ヤバイ」
「うちに定期的に運んでくる方がおられますので、また不要な際は受け取って頂けると助かりますのよ?」
「……ぜ、是非!」
「カミラちゃん凄く良い顔してますね」
「ふふ、渡し甲斐のあるリアクションを頂けて私も嬉しく思います。では待たせて頂いても?」
「失礼しました! どうぞおかけください!」
漸く、この体制に戻ってこられた。本当に長かった。それにもうダメかと考えた時もあった。だけど……みんなに支えられて、僕の理想とする最も店がハイパフォーマンスとなるこのスタイルに戻ってこられた。
少し前まではこれが当たり前だったのに、失いかけて気付くなんて間抜けな話だけど……今はその有り難みを思い出す度に涙が出そうになってしまう。
これは……忘れる訳にはいかない感覚だ。
少し変わった事と言えば、よりお客様の健康に寄り添える様になったという事と、僕自身がそれに敏感になったという事。
対象が毒であれば、何となく気配を感じてしまう。そして特に、僕が介入した毒に関しては本当に良く分かってしまう。レミリアがこっそり店に来た時も、レミリアの気配ではなく、彼女の中にある僕が操作する毒の気配を感じてしまったが故に気が付いた、という訳だ。
けれどこの話は……誰にもする訳にはいかない。僕自身が【毒帝】をここ以外で使う気が無いのだから、それこそが唯一の正解だと確信している。
「お次の……クラリスさん! どうぞ!」
「あら、ありがとう。では失礼しますわ」
お店は今日も通常営業。
扉を開けて誰かが部屋に入る。もう声で誰が来るかなんて分かりきっているけどね。
「いらっしゃいませ、クラリスさん」
「ご機嫌よう、その後は何も問題はありません事?」
「その節は大変ご迷惑をおかけして……」
「いえいえ、私は何も出来ませんでしたから。それより話を聞いていた限り、凡そまともな手段では脱せない危機であったと認識しておりますが……一体?」
「前回も言いましたが、ここではやはり」
「言えませんよね。申し訳ないのですが、気になって仕方なくて。……そうですわね、ならこういうのは如何でしょうか」
「え?」
「私が貴方の家にお邪魔させて頂くか、こちらの皆様を私の所へご招待させて頂くか。どうでしょう?」
く、クラリスさんが我が家に? いやいやそんな令嬢様をお招き出来るようなそんなレベルの家じゃないからな……。
でも正直、この能力の事は誰にも言うべきではないが、いざという時に動ける体制を作るという意味ではクラリスさんの信用は得ているべきだとも考えている。嘘にならないレベルに誤魔化しつつも、ある程度は伝えるべきかと、そう思っていた矢先なので話自体は問題ない。
けどね……。
「わ、我が家はちょっとクラリスさんを呼ぶには……」
「ではご招待させて頂きましょう、よろしいですか?」
「そうですね、僕としても話はしようと考えてましたので。みんなで行っても良いのですか? 自分で言うのもアレですけど、身分としては不相応な……」
「私が通う医院の方々を労う、という名目に嘘偽りがないのですから。問題ありません事よ?」
「……でしたら、そうですね」
「それでよろしいですか?」
「是非、お邪魔させて頂ければと思います」
「分かりました、では改めて手配を済ませて連絡させて頂きますわ」
「離しませんよ?」
「!!?」
こうして、クラリスさんの家にお呼ばれする事になった。一度見ているだけに今から緊張が……。