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第71話 いらっしゃいませ⑤ー5

 ご主人様も、カミラちゃんもプラムちゃんも、それにマーベルさんも。みんながとっても優しくしてくれて。何度も施される治療はとても暖かくて心地よくて。でも、良くなっている気配が感じられなくて。


 でも絶対大丈夫だからって、みんなが励ましてくれて。ただただ、申し訳なくて。


 そんな辛い時間の続く朝、部屋を訪ねてくれたご主人様の姿をみて、私は自身がどうなるのかを何となく察してしまいました。嘘です、本当は薄眼を開けてご主人様を見ていました。


 首を横に振るご主人様。きっと……たくさんたくさん頑張ってくれて、手立てを模索してくれて、その上で、どうにもならないんだと。その時私は理解しました。


 きっと、私はもう助からないんだ。

 確かにそうかもしれない。

 だって……もう身体は殆ど動かないから。


 一度離席したご主人様が部屋に戻られた際、治療院の先生もご一緒で。そして、それでも尚私に治療を施してくれて。


 こんなに大切にして頂けるのなら……きっと私はすごく幸せ者だな。そんな事を考えながら、同時にもう一つの事を考えておりました。


 これ以上、私に無駄なお金も時間も使って欲しくない、ご主人様には……待たせているお客様が沢山いるのだから。


 そのお客様の喜びや幸せを、これから消え行く私が奪っては……本当に申し訳ない。これでは……死んでも死に切れない。せめて最後に一つでも良いから役に立ちたくて……強がりました。


 お店を再開して下さい、と。


 あーあー、どうして言ってしまったのでしょう。役には立ちたかったけど……本音は違います。強がらずに言えばよかったと、少しだけ後悔しました。



 本当は側にいて欲しかった。


 手を握って欲しかった。


 頭を撫でて貰いたかった。


 ご飯をもっと食べて貰いたかった。


 お店について沢山お話しがしたかった。


 優しく、抱き締めて欲しかった。


 一緒に……眠りたかった。



 でも……ご主人様は凄いお人なので、私が一人で独占する訳にはいきません。これは只のワガママです。でももし……最後に一つだけ。後悔しない様に、ワガママを言っても良いのなら……。


 眠るのは、ご主人様の所がいいです、と。マーベルさんとプラムちゃんに、言ってしまいました。ご迷惑をおかけするかもしれないけれど……きっともう最後だから。


 だから……それくらいは、大丈夫ですかね?


 大丈夫だと……良いなぁ。



 お店についた時はもう日が暮れていて、暗い部屋の中で、ご主人様とカミラちゃんが。もう身体は動かないし、声も上手く出せません。視界もはっきりしないので、暗いのと、声だけで……そこに居るのだと認識していました。


 もうきっとこれが最後だから、ちゃんと伝えないと。ご主人様の気配が近くなったのを感じた時、私は……唇を、必死に動かしました。


 ご主人様……ありがとう。

 大好きです。

 ちゃんと……伝わりましたか?


 私が残る全ての力でご主人様に想いを伝えると、私は遂に全てを諦めて、脱力しました。


 やり残した事は沢山あるけれど……最後に一緒にいられたのが、ここに居る人たちで本当に良かった。


 私は幸せだったと。


 そう思いながら、目を閉じました。











 身の内に、何故か突然暖かい物が。あれ? もう何も感じなかった筈なのに……どうしてわかるのでしょうか? でも確かに、お腹の辺りに、暖かい物が触れている様な。そんな気がして。


 次の瞬間、全身に突然感覚が蘇ったかの様に、衝撃が走りました。鳥肌が立つ様な……まるで極寒の地で、暖かいスープを頂いた様な。


 そんな……今まで感じた事のない優しい暖かさが、全身を駆け巡りました。


 そしてゆっくりと目を開けると……ぐしゃぐしゃに泣いているご主人様の姿が。


 あぁ……私は……またこの人に助けられてしまった。


 すぐに分かりました。


 だって、この優しい暖かさには覚えがあったから。


 そう、貴方の上で眠っていた、あの時と同じ。



 そうですよね?


 ご主人様。

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