第68話 いらっしゃいませ⑤ー2
気が付けばクラリスさんやマーベルさん、沢山の利用者様に支えられて私は日々を普通に過ごせる様になっておりました。誰かに可愛いと、好きだと言ってもらえるのは凄く心に響きました。それが何だという訳ではないのですが、認められている気がして。ここにいても良いのだと安心できるのです。
段々、自分がここに居場所を持っても良いのだと自信が持てる様になっていきました。それ程に、ご主人様は良くしてくれていたから。
そんなある日の帰り道、裏道で小柄な女の子と出会いました。暗い道に溶け込む様な黒茶色の髪の毛。ショートで癖っ毛のある髪と、対照的に輝く金色の目が私の視線を惹きつけました。そう、カミラちゃんとの出会いです。
衰弱した様子のカミラちゃんでしたが、ただの栄養不足と睡眠不足みたいな状態だったらしく、ご飯を食べてよく眠ると凄く元気になって。ご飯の時間になると今でも一番いいリアクションをしてくれる作り甲斐のある家族です。
少しイタズラに笑う時の八重歯がとても可愛らしく、でもしっかりしていて。私より小柄なカミラちゃんには、少し姉と接しているかの様な感覚を抱きました。凄くしっかりしてるんです。少しくらいのトラブルでは動じない、逞しい子なんです。
そんなカミラちゃんが連れてきてくれたのが、旧友だと言うプラムちゃんでした。この子は背丈はカミラちゃんと同じくらいなのですが、金色の長い髪に綺麗な翠の目をした、少しふわふわしたカミラちゃんとは対照的な女の子。とても怖がりで人前に出るのが苦手で。何をするのもなかなか上手くいかなくて。可愛い妹が出来た様な感覚でした。
でもプラムちゃんは私やカミラちゃんより、店の事よく知っています。どこに何がどれくらいあるのか。プラムちゃんがいれば間違える事なんてありません。それに……最近ではお料理を一緒にするのもとても楽しいんです。プラムちゃんは頑張り屋さんだから、きっとすぐに私なんかより美味しいご飯が作れる様になっちゃいますね。
二人ともとっても良い子で、気付いたら家族に加わっていました。
私と、カミラちゃんと、プラムちゃん。みんなご主人様と出会うまでの事情はバラバラで血も繋がっておりませんが、私は家族の様に感じています。ご主人様も……同じ気持ちでいてくれているのでしょうか。
けれど、私には本当の家族がいます。当然、それはいつも心にあって忘れたりなんかしません。目の前の事を楽しみ切れない、一歩引いた様な状態になるのは当然の事で、寧ろ私はこんな自由で幸せな感情を抱いても良いのだろうかと、いつも不安と隣り合わせでした。
だから……私にはご主人様の言ってくれたお姉ちゃんの事を考えてくれるという言葉で、その二つを何とか繋いで過ごしていました。でも、やはりダメですね。ご主人様にバレてました。
ご主人様は私に、もっと頑張ると言ってくれて。その為にやろうと考えている事を教えてくれて。そして……私を救ってくれました。
家族の中で私だけが自由で甘い状況にいる罪悪感。状況が幸せになればなる程、私に対して圧力を強めてくるその重圧に心が締め付けられていた時。
ご主人様は教えてくれたのです。私は幸せに罪悪感を覚える必要はないと。そして、私だけが考えられる立場にいて、そこは決して楽な場所ではない事を。だから苦悩するのは当然だけど、一緒に頑張ろうと言ってくれて。
一緒にと言う言葉の暖かさに、私はまた泣いてしまいました。本当に弱くて嫌になりますが、私を抱きしめてくれるご主人様のお陰で……自分を嫌いにならずに済みました。
本当に……感謝してもしきれません。この頃にはもうすっかりご主人様の事もみんなの事も信用して、もう一つの家族の様に思っておりました。まさかこんな風に私が過ごすなんてあの日売られた時には想像もしていなかったので、時々幸せ過ぎて不安になるのは……もう仕方ないですよね。