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第65話【 外れスキル『腹痛(微弱)』が『ポイズンマスター』に進化したら】

 それから僕はひたすらに能力を酷使した。それしかやる事がなかったから。だから店に戻って、カミラと二人でまず最初にやったのが。


【本日、全ての診察無料】


 この看板を掲げる事。何も考えたくなかった。ただ兎に角レミリアの望んでいた、一人でも多くの利用者様を幸せにと、笑顔にと願うその気持ちに報いる事しか考えたくなかった。


 他の全ての悪い事も何も考えずに、レミリアの望む事を叶えてやりたかった。僕には……そんな事しか出来ないから。


 お客様は最初こそ突然の看板に困惑していたけれど、すぐに状況を理解し、長蛇の列に。


 それをひたすら右手と左手で握手しながら流れるだけの握手マシーン。カミラがいなければ無料の場としてすら機能していなかっただろう。僕は一体なんなんだ。最初から、誰かの為になりたいとここまでやってきた。でも……本当に力になってあげたいその子一人救えやしない。


 これがそうなのか? 僕のやりたかった事はこれなのか? 違う、もっとあるはずだ。レミリアが望む、一人でも多くの幸せを。それはこんな安い状況じゃ無い筈だ。


 何人も、治療し続けた。

 何人も何人も。


 だけど……何をすれば良いのかは分からない。分からないからこそ今はがむしゃらに、目の前の事を。そこに逃げる様に、全ての力を注いだ。


 時間の経過が早い。


 さっきまで朝だったのに……日が傾いている気がする。


 どれ程に触れただろうか。何人、幸せに出来ただろうか。もう分からない。分からないけれど……僕は……まだ……。




 痛っ!?


 頭が……これは……ダメだ、目眩が。


「……少し、休憩」

「まだだ!」

「……あぅ」


 それでも僕は、その場を動かなかった。


 ゴメンなカミラ、君にも迷惑をかけてしまってる。


 でも僕には……これしかないから。


 だから……!?







  !!?







 何だ……急に頭がクリアに。


 この感覚、確かどこかで……!?


 そうだ、目覚めた時だ。


 なら何故今……いや、理解した。


 成る程、特異魔法(マルチスキル)が……変わったのか。


 成長……いや、進化したのか。


 今、ハッキリわかる。


 どうやら僕の【腹痛】はその姿を仮のモノとしていたみたいだ。


 今僕の中に感じるそのスキルに名をつけるなら【毒師】。


 そう、凡ゆる毒性を与える特異魔法(マルチスキル)


 そうか……その片鱗として漏れ出ていたのが【腹痛】だった、という訳か。




「クッソォォォォォ!!!」




 僕は目の前の机を叩きつけた。


 カミラも、近くにいた人も、驚いている。


 カミラが客に今日はもう閉店だと伝えて、店を閉め始めている。気を遣わせてばかりだ。


 机を叩きつけたその轟音の反動か、静まり返る部屋の刺さる様な空気が妙に心に訴えかける。


 僕の能力は【毒】であると。




 救えない。




 今理解している【毒師】の力をすぐに何かにと考えたが、これは壊す力だ。


 治癒能力は水の属性魔法(エレメント)の専売特許。


 僕の特異魔法(マルチスキル)は……破壊専門。


 何故、毒なんだ。


 毒じゃレミリアは……救えない。




「何でだよ……何でなんだよクッソォォォォォ」




 何度も。


 何度も何度も何度も、机を叩きつけた。


 見守ってくれているカミラの視線が痛い。


 けれど、僕は……自分が許せなかった。


 何故僕は、壊す事しか出来ないんだ……。




 ?




 入り口の方から複数の声が聞こえる。


 どれくらい時間が経ったんだ?


 意識が……ハッキリしない。


 カミラが慌てて音源へと向かった。


 店は閉まってる筈だ。


 今日はもう……誰にも会いたい気分では……!?




 れ、レミリア!!?




「あの……レミリアさん、ここに……居たいって」



 涙でぐちゃぐちゃのプラムとマーベルさんが支え運んで、もう喋る事もままならないレミリアを……店に連れてきた様だ。


 ここに居たい。


 すぐに理解出来た。


 ()()()という事か。


 その姿を見て何かが決壊する様に……僕は。



「レミリア……ごめんな。僕……カッコいい所、見せたかったのにさ。……足りないんだ。この店には君が居ないと……ダメみたいだ」



 縋る様にレミリアの隣に移動した。


 分かってる、一番辛いのはレミリアだ。


 なのに命ある僕がこんな……弱気でどうするって……分かってる、分かってるけど……?


 レミリアが、何かを言おうと?


 声は……出ない。


 口が微かに動いて……何かを。


【ありがとう】


 ……分かる、分かるよ。きっと、そう言おうとしてくれたんだよね。


 感謝を伝えたいのは……僕の方なのに。


 命あるのも、身体が自由なのも僕の方なのに。


 感謝の一つもせずに……。


 何してんだよ、何してんだよ。


 ……違うだろ。


 ……まだ。


 まだだ。


 まだ終わっていない。


 レミリアはそこに……生きている。



「ごめん、プラム、マーベルさん、レミリアをここに寝かせてあげてくれる?」



 僕はレミリアを診察台とも呼べるベッドの上に誘導し、そして……腹部に手を置いた。


 まだだ。


 感じろ。


 そこにあるのは全て【毒】、そうだろ?


 なら感じろ。


 全神経を集中して、全ての力で感じろ。


 レミリアに巣食う、毒を感じろ。


 そして……まだだ。


 毒を与えて壊すだけじゃない。


 それでは……足りない。


 それではレミリアは……戻ってこない。


 もっとだ。


 まだだ、もっとなんだ。


 答えろ特異魔法(マルチスキル)


 お前は本当に【毒】なのか?


 レミリアの望む幸せな光景を作ってきたお前は、みんなを笑顔に変えてきたお前は、本当にただの破壊の化身なのか?


 まだだ、そこで終わりじゃない。


 先がある。


 そうだろ!!


 答えろ!


 特異魔法(マルチスキル)!!!


 瞬間、診察室が目も眩む様な光に包まれる。


 そして、特異魔法(マルチスキル)が答える。


 お前の名は……そうだ【毒師】なんかじゃない。




毒帝(ポイズンマスター)】だ。




「レミリアの身体に巣食う全ての毒に命ずる」






「レミリアを」






「癒せ」

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