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第64話 レミリアのお願い

 翌朝。結局一晩中考えを巡らせども、何も思いつかないまま治療院へと帰還する事となった。成果の一つも持参出来ずにここに戻るのは……とても気が重い。けれど……戻らない訳にもいかない。


 レミリアが……待っているのだから。


「ただいま……レミリア?」

「あ、お、お帰……ごほごほっ」

「もうダメじゃない! 起き上がらなくても話は出来るでしょ? 寝てなさい」

「……も、申し訳……ありません」


 明らかに、体調が悪化している。というよりも麻痺に近い状況が進行しているといのなら……色々な箇所の動作に不備が出ていると言った方が正しいのかもしれない。


 表情は虚で……手足は力無く下がったまま。少し無理をして身体を起こそうとすると……すぐに呼吸に不備が出てしまう。今は……目を閉じている。


「マーベルさん、プラム、それにカミラ。本当にありがとう」


 僕がそう言うと三人が期待を寄せた表情で僕を見つめた。そして僕はそれに答えるべく、力無く……首を横に振った。


 本当に……情け無い。


「あ、院長さん! 先生が少し話があるって! 聞いてきた方が良いんじゃないかしら?」


 そんな空気を払拭すべく、マーベルさんが明るくそんな事を言ってくれる。みんなこんなに強いのに、頑張ってくれてるのに。


 レミリアはこんなに……耐えてくれてるのに。


 僕は……何をしているんだろう。


「分かった、少し席を外すね?」


 皆が無言の視線で見送る中、僕は先生の部屋へと移動した。




 ______





「ナビリス様ですね、お預かりのレミリア様の事で話がありまして。こちらにお掛け下さい」

「……はい」


 嫌な予感しかしなかった。


「非常に申し上げ辛いのですが、もう属性魔法(エレメント)による治療を施す意味は……殆どありません」


 これ以上、聞きたくなかった。


「彼女の身体は……もう限界です」


 でも、受け入れるしかなかった。

 これが現実だから。


「最後の治療、致しますか? まだ金額的には予算内ですが」


 最後の……治療。

 つまり、どう言う事なのだろうか。


「よ、よろしくお願いします」

「分かりました」


 先生と共にレミリアのいる病室へと移動する。そして治療の様子を共に見守る。淡い青の光がレミリアを包み込み、暖かな魔力が部屋の中を充満する。

 とても……綺麗な能力だ。


「はい、終わりましたよ。ではまた参ります」

「ありがとうございました」


 次は無いと言った先生が、また来ると言ってくれる。それだけで少し……心が安らいだ気がした。


「レミリア、どう?」

「ご、ご主人様。治療の、あとは……少し元気です」

「そっか、それは良かった」

「私……ご迷惑ばかりお掛けして……」


 こんな場面になっても、レミリアは自身の事よりも僕や店の事を優先しようとする。どうしてこんな優しい子が、こんなに良い子がこんな目に……。どうして僕は……何もしてやれないんだろう。


「あ、あの……ご主人様」

「ん? どうしたの?」

「私は……も、もうダメなんですかね?」


 イタズラにニッコリと笑いながら、訪ねてくるレミリア。僕は言葉に……詰まった。


「段々……身体の感覚が無くなっていくんです。もう腕は上がらなくて……こ、このまま……動かなく……なるのですか?」

「……そんな訳ないだろ? すぐに良くなるから。治療法が難しいみたいだけど、きっと何とかなるから……さ」


 言葉が出てこない。僕は今、当たり障りのない嘘をついている。何も解決していない。何の意味もない……耳障りの良い空虚な言葉を並べているだけだ。


「ご、ご主人様。私、その……お願いがあります」

「何!? 何でも言ってくれ!」


 珍しくレミリアから自発的なお願い。

 今これを聞かなくていつ……!!


「お店……再開して頂けませんか?」

「……!!?」


 店を……再開?


「わ、私……お姉ちゃんの為にと、言ってくれたご主人様の為に頑張って……ました」

「そうだね、本当に良く頑張ってくれてた」

「でも……そ、それだけじゃないんです」

「……?」

「マーベルさんや、クラ……リスさん、ほ、他の利用者の皆様が……本当に嬉しそうに……してくれてて。ご主人様の……お仕事は……み、みんなを笑顔にするから……私は……」


 もう、涙を我慢出来なかった。

 場にいる全員が……。

 やっぱりレミリアが……一番強いね。

 敵わないよ。


「私は……あ、あの店が……」


 そっか。

 それが……レミリアのお願いなんだね。


「大好きなんです」


 分かった……分かったよ。

 君の知っている僕が、せめて最後までカッコよくあるように、見ていてくれ。

 ここでずっと君の側にいたかったけど、もっと幸せになれる願いがあるのなら、それを叶えよう。


 それしか出来ない……僕だから。


「カミラ、行くぞ」

「……了解」


 僕とカミラは、治療院を後にした。

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