第63話 止められない歩み
「ご機嫌よう、ナビリス様。今日は手紙を読んでの内容……という事ですわね?」
「こんにちわ、クラリスさん。手紙……本当にありがとうございます」
僕は今ラベルカーンの中心街、貴族領に訪れている。本来僕みたいな普通の人が踏み入れる様な場所ではないのだが……クラリスさんが手紙に合言葉となる暗号を残してくれていたので、それを持って受付とのコンタクトに成功した。
手紙を盗み見た誰かに悪用されると不味いからと用意された合言葉は【あの日私にさせた事】、受付で【我慢】と答えるとそのまま取り次いで貰えたという訳だ。
本当に機転の利く令嬢様で感謝しかない。そして僕は、事の成り行きをクラリスさんに説明した。
「成る程、そういう事でしたか。期待させて申し訳ないのですが、私では力になれませんわ」
「そう……ですか」
「森族と人族は今険悪な状況が続いております。その上で人族の蛮行が減らぬ現状、この件を解決するには悪党の力が必要となるのです」
「悪党……ですか」
「森族へ蛮行を働く彼らなら、或いは成人薬の一つや二つ持っていてもおかしくないでしょう。しかし、問題はそれが本物かどうか我々には判別出来ないという事」
「た、確かに……」
「そして何より、話から推察するに本件では狼の獣人専用の薬が必要。なのであれば……難しいですわ」
貴族令嬢のクラリスさん。博識であり、かつコネクションもあるのだろうが……恐らくこれは闇側へのコネクション。貴族の中でも取り分けデリケートな話題だろう。
それを他人である僕にしてくれているだけでも十分有り難い話……なのだが。進展しなければ意味が……。
「属性魔法の能力者は私どもの抱えている存在とそちらの方で差はございません。それにこの件に私が関わるのは……」
「そう……ですね。貴族としての立場の問題が絡んでくるのでしたら、これ以上迷惑はかけられません。十分参考になりました。本当に、ありがとうございます」
「いえ……その……お力になれなくて申し訳ありません」
マーベルさんも、ライバックさんも、クラリスさんも、みんな当たってみたけど、結果には繋がらなかった。
後は……何があるだろう。考えろ、思考を止めたらそこで終わってしまう。終わらせる訳にはいかない。まだだ、まだ何か……あるはずなんだ。