第60話 奴隷商人という人種
「ちょっと急用が出来てさ、悪いけどレミリアを頼むね。治療はお願いしてるから、看病よろしく」
「……重要な、要件?」
「とても」
「……分かった、任せて」
ずっとレミリアに声をかけながら額や顔の汗を拭いてくれているプラム。それに状況を理解して、皆まで言わずとも場を任せられるカミラ。
ありがとう、ここは頼むよ。
「レミリア、先生にお願いしたからさ。すぐに良くなるよ。少し待っててくれ」
「ご、ご主人様……」
身体の麻痺感、と言っていたな。それが物を掴み損ねていた原因か。こんな風になるまで無茶するなんて……。いや、考えている場合じゃない。今はやるべき事がある。すぐに行動しよう。
場をカミラに任せて、僕は例の奴隷商人の店を訪ねた。
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「いらっしゃいませー! 本日はどの様な奴隷をお探しで? おススメの商品ですか!? それなら……」
「いえ、僕は既にここで購入を終えています」
「既にお客様でしたか! 本日は追加の購入ですか?」
「いや、奴隷の説明を聞きたくて」
「説明……ですか?」
「狼の獣人の子を買った者なのですが」
「……チッ、なんだカモかよ。邪魔してねーでさっさと消えろ。忙しいんだよ俺は」
態度が急変する、だが今日は物怖じしている暇はない。
「ここで買った獣人の様子がおかしいんです。成人薬の話はご存知ですか?」
「あ? 当たり前だろ?」
「なら何故!?」
「……馬鹿かよ、浮かれやがって」
くっそ、何だってんだ……。僕はただ薬を……。
「あんな馬鹿高けぇ薬なんてねーよ」
「なっ!?」
薬がない……だって?
「で、死んだのか? そろそろだろ?」
「お、お前……」
「まぁいい勉強になったと諦めるんだな」
「いい加減にしろ!!」
「テメーこそいい加減にしろや。わかんねーのか?」
「……? 何がだよ」
「何で姉妹であんなに値段差があったのか分かんねーのかよ? 言っても同じ個体で、数年で同じ商品になる筈にも関わらず、十倍も差があったんだぞ?」
「……!?」
「答えは簡単だ、あいつらは家族一括入荷だった。姉は即金になる、だから薬を与えた。妹の分を買う資金力はうちにはない。つまりそういうこった」
「僕は……騙されていたのか?」
「浮かれ過ぎなんだよ。ちょっと考えりゃおかしいって事くらいわかんだろ? 馬鹿かよ」
「!?」
レミリアは元々……死ぬ予定だった?
それを僕に十分の一の値段で押し付けた?
本人の健気さを利用して?
……嘘だろ。
「それにもう金には困ってねーんだよ、だからアンタからこれ以上搾り取る気もねぇ」
「……まさか!?」
「そうさ! 姉がやっと売れたんだ! もうちょっと前になるが変な助手とか言う奴が買っていったんだ! 前のゴミの時に良くしてやったのが効いたぜ!! まぁこっちもギリギリでやってたから値段は少し負けてやったらよ、あいつその場で全額出していきやがるんだぜ? 頭イカレてやがる」
「そ、そんな……」
「お陰でちゃんと儲けが出たぜ! しかもその差額も一部は妹が補填してくれたからな! こっちとしては良い商売だったよ。そういう訳だ、諦めて帰んな」
「お前……」
「それに薬は入荷しねーぜ? そもそもセットで入荷しなけりゃ、あれだけを探すとなると俺でも時間がかかるんだよ。それで死んだから要りませんとか言われたらたまんねぇだろ? 分かったら帰れ」
「こ、この野郎……」
「おい、これも商売で生活だ。それに妹はちゃんと十分の一の値段まで下げて取り引きしてるんだ、文句を言われる筋合いもねぇよ。恨むならテメー無能を恨みな」
「……クッソ!」
何も……言い返せなかった。