第58話 振る舞いの理由
「おはようございます! ご主人様!」
「おはよ……え? レミリア?」
「はい、ご主人様!」
「えっと、身体は……大丈夫?」
「お陰様ですっかり!」
「……なら良いんだけど」
目が覚めるとレミリアが朝食の用意をするいつもの光景。寝惚けたままの頭では状況が理解出来ないのでひとまず顔を洗いに行こうとすると、そこには先客が。
「おはよ、カミラ」
「……何か、おかしい」
「ん? ちょっと待ってね」
一先ず顔を洗い目を覚まさせる。ハッキリ言ってまだ状況が良く分かっていない。
「ふぅ、ごめんごめん」
「……レミリア、危険」
「そう……だよね」
「……言っても、聞かない」
「ありがと、僕から言うよ」
少し頭がクリアになった所ですぐに意見をくれるカミラ。本当に助かるね。やっぱおかしいよ、何か寝起きの勢いにやられてたけどそんな筈ないよね。
もう少し寝てて貰って、今日は治療院かな。
「レミ……!?」
大きな物音がキッチンの方から聞こえる。おいおい待て待て、一体何が……!?
「れ、レミリアさん! レミリアさん!」
「どうしたプラム!?」
「分からない、急に崩れるみたいに倒れて……」
やはり……無理をしていたのか。心配かけまいと? 本当にレミリアって子は……。
「レミリア聞こえるか? レミリア!」
「ご、ご主人様……すみません。わ、私も仕事……」
「馬鹿言え、すぐに治療院だ!」
「い、いえそんな、こんな風邪くらいで申し訳ないです」
「風邪でそんな顔になるかよ……」
昨日より明らかに悪くなっている。咳も時折しているが……呼吸が荒い。何なんだよこれ、風邪じゃなかったのか?
とにかく、治療院だ。
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「こちらに寝かせてあげて下さい」
「ありがとうございます」
属性魔法による治療院。そも回復に纏わる手段は限られていて、一つはポーションや解毒薬。これらは市販されているが効果はかなり薄い。そしてもう一つが属性魔法による治療。
回復に纏わる力を持つのは水の属性魔法を開花させた能力者のみで、その中でも回復能力は特に鍛錬を重ねた者にしか辿り着けない一種の極みの様な力。
それ故に、属性魔法の治療院は法外な値段を請求してくるのだが、金に糸目をつけている場合ではない。
恐らく……そこが引っかかっていたからレミリアは気丈に振る舞っていたのだろう。だがそこさえ気にしなければ属性魔法の治療院の信頼度は高い。
「レミリア……すぐに診て貰えるからな。もう大丈夫だ」
「ご、ご主人様。そんな……私なんかに……」
「分かったから、まずは元気になろうな?」
つまり、風邪なんかでくる場所ではない。今回は様子が明らかにおかしかったからこういう手段を取ったが、普通は貴族や一部の金持ちしか使わない様な場所だ。
それに……お金は一応それなりに貯まってはきている。背に腹はかえられぬ状況だ。
特に順番を待っている様子もない。
きっとすぐに見て貰えるだろう。
それで解決だ。