第56話 予兆
「こほこほっ、いらっしゃいませ、順番にお待ちいただければ順次お声かけさせて頂きます」
「あらレミリアさん、風邪ですの?」
「あっ、クラリスさん! こんにちわ!」
「ご機嫌よう」
「えっと……少し咳が出るだけなんです」
「ならいいのですけれど。無理はなさらないように」
「ありがとうございます、また声をかけさせてもらいますね」
そう、レミリアは今朝からどうも咳が出ている。特に体調が悪いという訳ではないらしく、本人の希望でマスクを付けての仕事となった。
うーん、いつも元気なレミリアが体調不良とは心配だな、大丈夫なのか?
「……レミリア、心配」
「そうだよな。プラムに頼んで何か栄養のある晩御飯とかにしようか?」
「……既に、手配済み」
「相変わらず抜かりないな、まぁプラムに任せるか」
もう簡単なご飯くらいなら作ってしまえるプラム。今日の晩御飯は昼のうちに仕込んでしまうらしく、買い物から仕込みまでして帰るとカミラから言伝が。
みんな頼りになり過ぎてちょっと引け目を感じるね。
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「こほこほっ、こほこほっ、いらっしゃいませ、順番にお待ちいただければ順次お声かけさせて頂きます」
「……レミリア、休むべき」
「いえ、これくらい! みんなも頑張っているのですから私だけ休む訳にはいきません!」
「……戦士の、休息」
「休むなら、みんなで一緒に、です!」
「……ダメなら、教えて」
「カミラちゃん……、ありがとうございます。その時はちゃんと言わせて貰いますね」
「……必ず、約束」
あれから何日か過ぎた、けれどレミリアの体調不良が良くならない。僕は気付いてなかったが、プラム曰く、少し前から良く食材を持ち損なったり、どこかにぶつかったりというのが増えていたらしい。
それを聞いて先日の皿の件を思い出す。
特に悪化している様にも見えないけれど、少し疲れがたまっているのかもしれない。ほぼ開店当初から長く一緒に働いてくれてるレミリア。色んな事に気がついてしまう彼女は僕より可動領域も遥かに広い。体力的に辛くなっているのなら……休まないと治らないよね。
「レミリア、ちょっといい?」
「ご主人様? 何かありましたか?」
「体調大丈夫なの? 一旦休んだ方が良いよ」
「体調は大丈夫なんです! 少し咳が出るくらいなので!」
「本当にそれだけ?」
「ご主人様、お願いします! 働かせて下さい!」
「あ、えっと……まぁ、本当にダメになる前に教えてくれよ?」
「ありがとうございます! その時はちゃんと言わせて貰います!」
……結局、カミラと同じ様な事しか言えなかったな。本人が休みたくないなら無理矢理休ませても辛いだけなのかなと、そう考えてしまう程の表情で訴えかけられると……弱いなぁ。
早く良くなってくれると良いんだけど。