第54話 老婆の昔話
「ではお婆様は昔は二人組で行動されてたんですか?」
「本当に昔はね。それこそ……そうだね、まだまだ色々な事が落ち着いていなかった世界が荒れていた頃。あたしゃ軍に居たからそういう意味ではもっと大人数ではあったんだがね。組んでた奴も今じゃじじいさね」
「え、軍人だったんですか?」
「おや、確か坊やもそうだったらしいじゃないか。あたしゃもう軍が信じられなくてね、やってられなかったんだよ」
「僕は……自身が信じられなくて軍には居続ける事が出来ませんでした」
「そんなご大層な能力を持っていて尚そんな事を言っとるのかい?」
「大層?」
「特異魔法なんだろ? あたしゃそう聞いとるよ」
「まぁ……側だけ見ればそうなりますね。中身が腹痛を起こすのみの能力でしたが」
店主の出してくれる料理を食べながら二人と、特におばあちゃんの方と良く話をした。どうも元々は軍属だったらしく共通の話題も多かった上に向こうは大ベテラン。ちょっとした経験談が一々面白くて話に引き込まれていった。
「珍しいね? 長い事色んな奴を見てきたが、使えない特異魔法なんて見た事ないんだけどねぇ」
「使えない訳ではないんですよ? 現にこうして……みんなと出会えましたし」
「戦闘に不向き……か。戦闘しなくてもあたしなら自身の才能を恨んでたね。せめて属性魔法で良いから代えてくれってね」
「本当に最初だけ、そう考えました。でも軍を辞めると……どこか吹っ切れまして」
「そういうもんなのかね」
僕らが会話しているのを他のメンバーは興味深く聞いてくれている。特に……ペロさんが真剣な表情そのものだ。
「特異魔法ってのは目覚めると理解するって聞いてっけどさ。実際どうなんだ?」
「その通りでした。まるで長年共にいたかの様に……分かるんです。この能力が何を出来るのか、どう使えるのかが」
「へぇー、やっぱそうなんだな。あっしは何に目覚めるのかね」
「まだなんですか?」
「日が浅いからしょうがないさね、こやつは本腰入れるまでが長過ぎた。これからなんだよ」
「なんでまた急に始めたの? 確かかなり前にジルさんが言っても聞かなかったって言ってたと思うんだけど、その辺どうなの?」
「あー、えっと……色々あってさ。お前には才能があるって言ってくれる変な奴がいて、そいつの事は不思議と信用出来たんだ。だから……そいつが信じてくれたあっしの才能って奴を……信じてみようかなってさ」
「成る程ね、そういう事だったの」
「あたしゃ何であれ嬉しいさね」
「それにやっぱり才能もあったみたいだしね」
「そりゃ、あたしの孫だよ? 当然さね」
「ふふ、そうね」
「さて、坊や」
おばあちゃんが僕を真剣な表情で見つめ、言葉を改めた。
「特異魔法とは、理不尽の象徴だ。大概の能力が抗えない強力なものとなっている。それを……うちのペロに教えてやってくれないかね?」
「僕に……出来る事でしたら」
そんなに持ち上げられてもな……むず痒いね。
「ペロさん、手を」
「ん? 手?」
「はい、これで終わりです」
「え? これだけで……え? ……嘘だろ? ちょ、ととととトイレどっち!?」
「確かあっちに」
「悪い、失礼するよ!」
慌てて例の部屋に走り去るペロさん。こんなので何かが分かるもんなのかな?
「やはり……侮れないね特異魔法」
「え?」
「この理不尽、或いはあと少し何かが違っていれば……そう考えると恐ろしくてね」
「はぁ、でも何も違いませんでしたからね」
「救いは、坊やがそれを善行に利用してる事さね。大した坊やだ」
「そんな事……これしかなかったんですよ」
その後もマーベルさん、おばあちゃん、ペロさんの三人を加えた七人でご飯を頂いた。やはり冒険者の話は面白い。けど……どこか別の世界の様で。
また機会があれば、話を聞かせて貰いたいもんだ。