第3話 誰かの為に出来る事
今まで勤勉に兵役を熟し続けてきた毎日、自分の時間なんて殆ど無かった。けれど今回の退役でずっと無かった自由な時間が突然降って湧いてくる、それも纏めて。そんな状況に直面してから改めて思う、大量の時間を手にしてしまうと逆に持て余すよ本当に。分かってはいたけど極端過ぎる。
お金は本当に使ってこなかったから結構な額が貯金されている。やろうと思えば割と何でもやれるだろうし、買いたいのなら何でも買えるだろうけど、いかんせん物欲が湧かない。
そうなると何をするでもなくダラダラする時間が流れてしまう。けれど不思議なもので、そんな時間も三日もすれば飽きるものだ。そうなると今度は動きたくてウズウズし始める。何か……始めたいな。
そこで考えた、何を始めようか。
どうせやるならお金を稼げる様な事の方がいい。だがそうなると仕事になってしまうからなぁ。仕事って言っても、僕はずっと軍に務めていたから身体を動かす事くらいしか出来ない。器用に別の何かが出来るという事もない。
仮に出来る事があるとすれば……この特異魔法くらいか。ならこれを使って商売? バカバカしい。そんな事するくらいならまだ用心棒でもしてた方がマシだろう。
そうなってくると……何も残らない。特に目標もなく、気づけば親によって軍に放り込まれ、そこでも限界を感じて、可能性にすら見放されて。僕は何をしてきたんだろ。少なくとも軍に居た頃は国の為に頑張っているつもりだった。なら今は? このままよく分からないまま何も出来ずに死んでいく?
そんなの御免だ。けれど、現状それすらも現実的な未来としてあり得る事を考えると、やはりこのままではまずい。そんな事を考えども考えども思考は堂々巡り。酒を飲んでは何もしない日々を過ごしていた。
だがそんなある日、いつもの飲み屋でたまたま隣に座っていた二人組が酒を飲みながらなかなかに恥ずかしい会話をしていたのを横で聞いてしまった。
「マジでうんこ出ねーの。私このまま爆発するんじゃね? もう一週間なんだけど」
「やめなよもー。しっかり水とか飲むしかないんじゃない?」
「やれる事はやってるっつーの」
「ならもう諦めなようんこタンク」
「タンク言うなし」
内容が場に相応しいかどうかはさて置おいて、僕はその話を横耳に聞いた時フとこう考えてしまった。この内容、もしかして僕のスキルなら何とか出来たりして……?
文字通りクソスキルであるこの能力が、もしこれで何かの役に立てるなら本望だと。酒の勢いもあって、僕は隣の二人組に声をかけて見ることにした。
お酒の勢いって大切だよね。
「お姉さん、騙されたと思って僕の手を握ってみてくれませんか?」
「あ? 何なんだよ新手のナンパ? しっしっ」
「さっきの悩み、もしかしたら何とか出来るかもしれませんから。物は試しって事で」
「悩み? アンタ人の話盗み聞いたワケ?」
お姉さんが立ち上がり、僕の胸ぐらを掴むべく手を伸ばしてくるその手を、僕の両手でキャッチする。
「ちょっ!? 何すんの! 触んな!」
これで条件は整った。後はそれが本当に発動するかどうか……。
「……え? う、嘘……ちょっ、ど、どけし道あけろし!?」
慌てて店のトイレへ駆け込むお姉さん。店で目立ってしまっていた分、誰もがその様子を見て心配する。急にどうしたのかと。そして数分後、とてつもなくスッキリした顔をしたお姉さんが帰還するではないか。
その時僕は気がついた。
もしかしてこれは仕事に出来るのでは……!?