第29話 二人のポリシー
「よーし、カミラのお陰でもう片付けが殆ど済んでるからさ。二人ともちょっと話をしようか」
「え? 話……ですか?」
「……何?」
僕は……完全に失念していた。レミリアは奴隷で、従業員で、家族。だからカミラという外部の人が店にやってきてくれるまで、完全に考えから抜けていた事がある。
……給料だ。
「カミラ、今日はありがと」
「……問題ない」
「これで恩返しは完了、それでいいね?」
「……貴方がそれで良いと言うなら」
「ん、なら恩返しはここまでだ」
「……うん」
まるでお前は去れと言わんばかりの僕の発言に、少し寂しそうな顔をするカミラ。あー言う順番間違えたかな。
「それでもしだけどさ。カミラさえ良ければ……このままここで働かないか?」
「……え?」
「カミラみたいに働ける人、前から雇いたいと思ってたんだ。何ならその友人も連れてきて構わない。どうかな?」
「……私、孤児」
「だから?」
「……大丈夫?」
「関係ないでしょ? 家は……ちょっと手狭になるけどウチに来ればいいし。布団買わなきゃだけどね」
「……もし」
「うん」
「……良いなら、働きたい」
「よし、決まりだ」
「やった! これからよろしくお願いします、カミラちゃん! 楽しくなりますね!」
「……よろしく」
カミラはかなり遠慮がちな態度だったが、現時点で既に役割のある仕事が出来るんだから何の問題もない。
むしろ問題なのは……僕だ。
「さて、レミリア」
「え? あ、はい」
「話がある」
「……な、何でしょうか?」
あれ? 何かちょっと震えてるような……? うーん、また話す順番間違えたかな……。ダメだなぁ。
「レミリアには本当に世話になっている」
「は、はい」
「そこでだ」
「……何でしょうか?」
「給料を渡そうと思う」
「……え? えっと……え?」
「お給料、お金」
「……何故ですか?」
「何故って……働いてくれてるからでしょ?」
「でも私はご主人様の奴隷です」
「でも従業員でしょ?」
「その前に奴隷です、なのでお気になさらないで下さい」
「でもカミラを雇うなら給料が発生するし……」
「……宿代、あとご飯代」
「え?」
「……それで十分」
「……いやいや二人ともね、ほら」
「必要ありません」
「……必要ない、美味しいご飯、優先」
……うーん、困ったなぁ。二人とも頑なに受け取ろうとしてくれない。やっぱり奴隷に給料っておかしいのかな? それならせめて……美味しいご飯を用意するくらいしか?
何か違うんだけどなぁ、二人がそう言うなら……仕方ないか。
……せめてたまには外食とかにも連れて行こうかな。