第2話 不遇な始まり
「そこまで! 今日内容は各自で明日までに習得しておくように」
全体訓練を終えて汗を拭きながら自室へ戻る。そこに備え付けられているシャワーを浴びてひと段落。漸く落ち着ける。
「ふー、今日も……きつかったな」
こんな厳しい日々も今日で終わりかと思うと少し物寂しいく感じるのだから不思議なものだ。
僕の名前はナビリス。特にこれといった特徴もない普通の国兵だ。これもなりたくてなった仕事という訳ではない、両親が勝手に応募し勝手に受かって無理矢理詰め込まれたまま五年が経った。それだけの事。
周りの奴らはとんどんクラスアップしていき、初めはみんなGランクから始まっているのにも関わらず、才能ある奴らはポンポンA級やB級に昇格する。そして口を揃えてこういうんだ、【ここから先は本当の才能のあるやつしかなれない。だから俺たちはこの程度だ】と。
万年D級の僕からすればそれだけでも十分な才能だと思う、実際羨ましかったしね。それからそんなA級だなんだになれる才能溢れる奴らは、すべからくスキルに目覚めていたな。一般的な常識としてみんな属性魔法か特異魔法に目覚める事が出来るのだが、まず目覚めるのにも努力が必要となる。これがかなり才能に寄っていて、目覚めない者は最後まで目覚めない事だってあり得るらしい。
だが目覚めてからというもの、昇級も実力の向上も目まぐるしいものがあった。そして僕はその時まだ目覚めていなかった。だからこそ、もし目覚めたなら僕にたってワンチャンあるはず。そう信じて疑わなかった。
けれど、現実はそんなに甘くなかった。
つい先日の話、僕は訓練の最中に酷い頭痛に襲われた。そして目眩を併発しその場に倒れてしまった。仲間によって医務室に運ばれていく最中、薄れ行く意識の中僕はある事を悟った。今まさに、目覚めた。これこそが特異魔法に目覚めるという事なのだと。特異魔法というのはかなりレアな存在で殆どの人が習得出来ない選ばれし者の能力。それ自体が強者の証みたいな物なのだ。普通は目覚めても属性魔法になる事が多い。
ならば特異魔法に目覚めた僕は勝ち組……になる筈だったのだけど。どうもそうはいかないらしい。僕の特異魔法は特異も特異。あり得ない程不遇な外れスキルだった。
特異魔法、腹痛(微弱)。
一瞬、理解した筈の自身の頭を疑った。
特異魔法は目覚めると同時にその能力に纏わる情報が一気に理解出来ると聞いていたが、やはりその噂に違わず、理解は出来た。だがその内容は……認め難いものでしかなかった。
そして同時に悟る事となる。僕はもう腹痛という特異魔法に目覚めてしまった。故に属性魔法に目覚める事も他の特異魔法に目覚める事も、もうあり得ない。一人に与えられるスキルは一つまで、子供でも知っている世界の常識だ。
そしてそれらが理解できてしまった時点を持って、僕は軍を去る事にした。戦闘に不向きすぎるというのと、対象に触れるという制約があるにも関わらず効果が薄すぎる。そして下手に目覚めた事で確実に将来性がないという事。これらの理由から、僕の退役は驚くほど簡単に認められてしまった。