第181話 帰り支度
翌日、朝一番で戻ろうと早起きして抜け出そうとしたら入り口付近で一人の女性に待たれていた。ドキっとしたが自意識過剰だった。
ボス……じゃなくて、えっと、あの……お待ちしてます、みたいな歯切れの悪い話を残して去って行った。
成る程とボスの所に顔を出しに行くと、ひとつだけ忘れていた話があるという事を聞かされた。
エルフについてだ。
彼らが森の中では最も力を持ち、また近頃は何をしているのかよく分からないらしい。だから仮にもし彼らが何かをしたとして、それは本件とはほぼ無関係だと言われた。
今回のそれではなく、恐らく積もり積もったそれだろうから、今回の件は平和的に解決したが、森はそもそも怒りを少しずつ蓄積しているという旨を付け加えていた方が俺の身を守れるのではと、わざわざその話をする時間を設けてくれた様だ。
有り難い限りだよ本当。
あと呼び方に困ってる話も聞かせて貰ったから、ボスは貴方のままで、と話したら、では貴方様は? となってしまった。当たり前だよね。
横からレミリアがご主人様、お困りですか? とか言ってくるから危うくボスにご主人様って呼ばれる所だったよ。危険極まりない。
流石にそれはアレだから、それならボスの上だし、マスターか何かでと付け加えると、おぉ感謝しますマイマスター! みたいな。
まぁ気に入って貰えたみたいで何より……だね。
さて、そんなこんなで帰らなくちゃ。こっちは何とかなったけど向こうが丸投げのままで正直僕としてもあまり良く分かっていない。
まぁだからこそ下手に関わるより、求められていた治癒の部分と、戦力の部分に絞って関わった結果が今な訳だけど。
どうなってるだろうか。
______
「ミール、準備はいい?」
「キュゥ!」
「帰りはちょっと急ぐよ?」
「はい!」
「キュゥ!」
ボスに有益な話も聞かせて貰えた、荷物も纏まっている。長居する理由もない。
自分のサイズ感を操れる様になったミールがレミリアを乗せられるサイズに巨大化し、再び背中にレミリアを乗せて走り出した。
もうミールの魔力はBクラスくらいあるんじゃないかな? 特異魔法に目覚める前の僕だと太刀打ち出来ないくらいの能力になりつつあるよね。
ごめん、太刀打ち出来ないか。元Dクラスだからね……。ミール強くなっちゃったなー、気をつけてないと。
……?
なんかレミリアがニヤニヤしてる。何かあったのかな?
「ねぇレミリア、何かあったの?」
「あ、えっと……」
「ううん、まぁ何でも良いんだけどさ」
「ちょっと……森の枝を一本拝借しまして。森が少しでも側に居てくれると思うと嬉しくて……」
「そういう……ものなのか。ゴメンね気遣ってあげられなくて」
「とんでもないです! ご主人様のお陰で私はこうしてお姉ちゃんとも会えたし元気でいられるのです!」
「それでもだよ。これからは獅子族の件もあるし、時々森に顔を出せるといいね。それにもう多分、移動するのに誰かを雇う必要もないかなって。それも今回の件で良くわかったしね」
「……!?」
「みんなで行けるんじゃない? 僕とミールで護衛出来ればさ」
「良いんですか!?」
「……良いんだよ。ふふ、家族旅行だね」
家族旅行か……自分で言っておいてさ。
僕までニヤニヤしちゃってるよ多分。