第179話 意外な流れ
ついた場所は森の中にある拓けた草原の様な所だった。特に入り口みたいなものがある訳でもなく、柵みたいな仕切りもない。
そして思っていたよりも小さい。多分……ここにいるので三十人くらいか。藁の様なもので作られた家もあるから人数までは正確には分からない。
ただ……全員が魔力を保持している、大人も……子供も。大人は……女性ばかりだな。子供はどっちもいるみたいだけど女の子が多い様に見える。
服装はシンプルに腰と胸に動物の皮の様なものを巻いている。後は耳と尻尾、手足の周りにも毛が生えているのが特徴的かな。
「こっちだ、ボスに話は通っている。礼をさせてくれ」
スザンナさんがそう言って僕を誘導しながら集落の真ん中にある少し大き目の家へと案内された。ボスって……。
と思っていたら、やはりそれらしい風格のオスの獅子族の方、この集落のボスがいらっしゃった。風格凄い。というか怖い。
因みに建物中は外から見たのと同じ様な印象しかない簡単な作りだ。その奥に、とても威圧感のある風格を漂わせた獅子族の男性が座っていた。
「よく来てくれたな人族の、ワシも話は聞いとる。集落を救ってくれた事、誠に感謝しておる。言葉も上手く出せぬ程に……」
そして意外な事に、すぐに頭を下げられた。
「あ、いや、そんなこちらこそ! 人族が獅子族の皆様に迷惑をかけた事、謝罪させて下さい」
二人で頭を下げて、少し沈黙する。そしておもむろに……ボスと呼ばれる方が口を開いた。
「ワシらは力の一族。森に産まれ、そして戦い、そこに骨を埋めるのが定めじゃ。ワシの息子や嫁達が抑えられなんだら、恐らくワシも戦っとった。そして直感があった、恐らくワシらはここで死ぬのだろうと」
遠くを見つめるボス、僕は……どうしたらいいのかな?
「それ程に侵略者とは力の差があった、これは明白じゃ。それでもやるしかない、それで生き残れなんだら、それはそれじゃと思っとった。じゃが、戦わずして生き残った」
話が見えないけど、これ何の話なんだろう。被害の状況と、それを補填するには何が必要で、それを持って森との関係を崩さずにいれるのかという、その辺りが聞きたいんだけどな……。
「本来ならワシは死ぬべきじゃった。貴殿が死ねと言うのならそれもまたやむを得ないじゃろう」
「え、いや、え? 言いませんよ?」
待って、何の話?
「力を持つ者が集落を支配し、形成する。そして敗れたオスはシンプルに集落を去るか、死ぬかしかない」
「……え?」
「まさかこのワシが戦わずして敗北を悟るなど考えもしなかったが……戦う意味もあるまい。ワシとて意地はあるが、それ以上に感謝するべき強者に立てる爪など持ち合わせておらん」
「えっと……あの……」
「この集落は貴殿の物じゃ。メスは全て良い様に。ワシと我が子は貴殿の裁量で殺してくれて構わない」
「いやいやいや、やりませんから」
え、どうなってるの?
「今この瞬間より、貴殿がこの群れのボスじゃ」
「……え?」
……嘘でしょ?
どういう事なのかな……。