第175話 黒の乱舞
身体から溢れる黒い魔力を支えとして、空中に十メートル程浮き上がる。
浮いている訳ではなくて、あくまでも身体を支えている黒い魔力のお陰でその位置がキープ出来ているだけなのだけど、側から見ればまるで巨大な漆黒のマントを靡かせながら空中に浮いている様にも見えるかもしれない。
ちょっと上からも見てみたかったんだよね、キメラの事を。
ここまで魔力を解放すればもう触手程度は怖くも何ともない。僕に向けられて放たれた触手は僕に辿り着く事なく、途中で魔力に制圧される。
具体的には朽ち果ててるね。僕に攻撃する度に、触手はドロドロと何かの液体になって地面に落下していく。
「わ、私は夢でも見ているのか……」
一人だけその場に残ったスザンナが呟く言葉も良く聞こえる。このスタイルだと色々な機能が向上してるみたいだね。
『こ……ろ……し……、わ……これ……こ……ない』
「ほぅ、人の言葉を操れたか。元人か?」
『わ……執事……、こ……ぉ……し……て……く……だ……』
「……願いは聞き入れた。お前の在り方に敬意を表して、最後の願いを叶えよう」
巨大な口からは耐えず唾液を流し、どこが何なのか分からない身体から生えた腕と触手。その腕で何かを掴んでは口に放り込みながら、触手で手当たり次第攻撃を繰り返すキメラ。
防御はうまい訳でもなく身動きもスロー、ただただ堅い。それだけで倒せない。攻撃も拙く極めて単調。ただその攻撃の速さと力が図抜けているので、分かっていても躱せないだろう。
僕は躱す必要もないから問題ないけど、普通はたったそれだけの事で太刀打ち出来ない状況に追い込まれる。まさに力の暴力。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』
叫び散らしながら、自らの腕を引きちぎるキメラ。
そしてその腕から新たな手足が生え、行動を始める。さながら分裂している様にも見える。むしろ分離に近いのか。
「そ、そんな……これじゃあ……こんな奴どうやって倒せば……」
見張りを頼んだスザンナがガクガクと震えながら状況を見守る。手出しは出来ないだろうが、彼女たちもさっきまでアレと相対していたのだ。素直に凄いと思う。
次々と量産されていく、醜悪な動く肉塊。
絶望感に飲み込まれるスザンナには悪いけど、僕としてはアレは願ったり叶ったりと言っても過言ではない選択をしてくれたと考えている。
自分から総魔力を削るなど愚かの極みとしか言い様がない。
さぁ向こうの手札は出揃った、そろそろ始めようか。
血祭りだ。