第174話 解き放たれる黒
少しだけ……特異魔法の包容する魔力を解放、黒い魔力が僕の周りに出現する。
「……!? 貴様何をした!!」
向こうでライオン獣人の女性が何か言っているが、あの反応は仕方ないだろう。これは僕から見ても異質な魔力だ。
「クッソ! 貴様答えろ!!」
目の前のキメラと不気味な僕の二つの不安要素のせいでまともな思考が追いつかない様に見える。
魔力として、特異魔法の包容する魔力は何故か普段のそれより遥かに多量に身体に纏う事が出来る。この纏う魔力の量は即ち強さだ。
僕はそもそも魔力の総量だけは異常に多い、けど普段はそれを十分に使い熟せていないから意味を成さないが、それもこうなってくると話は別だ。
「オイ、仲間は他に何人いる?」
自分でもビックリするくらいダークな声が出た。
「え……? あ、えっと、ここには五人」
「全員下がらせろ、邪魔だ」
「……はい」
「お前らは何故ここで戦う?」
「あ、あの……」
「答えろ」
「は、はい、この先に我々の集落が……」
成る程、自分たちの村が突然襲われて、避難も何もままならないままにキメラが侵攻。これを食い止めなければ仲間が全滅してしまう。故に討伐か、或いは時間稼ぎだけでも、という訳か。……人として本当に申し訳なく思う。こんなモノのせいで。
「人は信じなくて良い、個人としてこの場は俺が預かる。不安ならお前が残れ、命は保証しよう。他は全員集落へ戻せ、移動の必要もない」
「そ、それはどういう……」
「こいつはここで死ぬからな」
「……!!」
触手を鞭の様にしならせて幾度となく僕を狙う触手。だがそれをまるで先が見通せるかの様に軽々と回避、凄く遅く見えるな。不思議な感覚だ。
「お前、名前は何だ?」
「……スザンナ」
「スザンナ、行動を開始しろ」
「は、はい!」
さて、目の前のこいつだけど、もうサイズ感のパワーもかなり凄まじい事になっている。こちらも相応の力で相対さねばやられかねない。
僕は魔力をもう一段階解放する。
「ヒィィ!? みんな! 早く集落に戻りな!」
「でででででも……」
「いいから早く! 死にたいのかい!!」
「は、はい!」
身体から溢れる黒い魔力は垂れ流されるままに身体から地面を這って消える事なく存在している。辺りに充満する圧倒的な【黒】、それは身体の一部が解き放たれたかの様に、或いは抑圧されていたストレスから解放されるかの様に。
嬉々として辺りの地面に溢れ出し喜びに舞う黒き魔力。この力が何かに触れたから毒が侵蝕、という事にはならない。そこはコントロールしているから周りには黒い【形を持った魔力】が充満している様にしか見えないだろう。
そして僕の目の前には肉塊の様な巨大なキメラ。
纏っている魔力の量から、ただ一息に毒殺ともいかなさそうだ。魔力の量とは即ち防御力。それに元々が魔物、毒への耐性もやや強いだろう。
まぁ。
あまり関係ないけどね。