第173話 キメラの暴走
まずいな……多分これ森の中だ。向こうの領域に既に入ってしまっている。何かと交戦している雰囲気もあるけど、どうやら止められなかったらしい。
「レミリア、ミール、ここからは距離を置いてついてきて欲しい。危険を感じたらすぐに退避で頼む」
「分かりました! ミールちゃんがいるので大丈夫です!」
「キュゥ!」
森の中にいるというのにどこにいるのか容易に分かってしまう、それ程までにキメラは大きく膨れ上がっている。魔力的にも、多分サイズ的にも。……強いな。
周りをよく見ると死んでいる人族の姿が。アレを目の前によく戦ったと思う、或いは、戦った結果アレに育ったか……だね。考えただけで足が震えそうになるよ。
「まずは……様子を見るか」
魔力を更に強化して纏い、森の中へと足を踏み入れる。このまま進めば……間も無くキメラと交戦するだろう。まずはキメラが今何と戦っているのか、だね。
存在感が凄すぎて分からなかったけど、思ったより深い所まで進んでいるらしい。
……見えた!
「くっ……やはりここまで……」
前に見た、ニーナさんたちと何とか倒したやつも大概だったけど、やはり今回のこいつは更に強大。それに……見た目が悍ましい。
何がどこについているのかよく分からないが、触手の様な腕を振り回しながら、中央に存在している大きな口へと色々な物を放り込んでいる。
森の中で大暴走中だ。
その侵攻を食い止めようと戦っていたのは……獣人か。猫……いや、ライオンか、多分その辺りの獣人だ。勇ましく、また強力な魔力を持ち、戦闘においては森の中でも高い能力を誇る力の一族だ。
何故彼らがここでこれと戦ってるんだ? 森を守る為……かな。ならコンタクトは取れるだろうか?
「チッ、こんな時に人族がまたノコノコと!! 噛み殺してやる!!」
ダメだ滅茶苦茶怒ってる。意思の疎通はちょっと難しいかもしれない。
と、ここで僕らの方に向けて何本かのキメラの触手が襲いかかる。回避はまだ問題ないけど、これに複数本でこられたらヤバイかもしれない。
オチオチ余所見も出来ないな。
「確かに僕は人族ですが、アレを止めに来ました!」
「貴様らがアレを寄越しておいて何を今更善人ヅラしてやがんだクソがぁぁぁぁ!!!」
……返す言葉もない。こっちのやり取りなどまるで気にかける様子もなく、キメラはその場で暴れ続けている。
「グァァァァ!!」
「ビルガリア! クッソ……こんなやつどうしろってんだクソが……」
何人ものライオン族の女性が戦っている。男は……と思っていたら、既にキメラの足元で……。
これ以上犠牲者を増やすのも忍びない。
……やるか。