第172話 その正体
魔獣を追いかけて西を目指しながら、僕は思考を並行する。今はひとまずこれで良い。ミールのお陰でかなり早く状況に当たれる上にレミリアまで付いてきてくれている。ベストな状況だ。
問題はライトレア家とのそれをどう証明していくのか。或いは汚職との無関与の証明でそっちもなんとか出来るかな? 両親が復帰しないと何とも言えないか。
「キュゥ!」
「雑魚は任せて!」
時折現れるボアやゴブリンといった下級の魔物は露払い程度に僕が蹴散らして進行を優先する。どうせ奴らの速度では追いつけないからね。
よし、ライトレア家のそれは今僕にはどうにも出来ない、一旦思考から切り放そう。
となると、今の問題は……魔獣の方か。
どれくらい膨れ上がっているのかにもよるけれど、場合によってはかなり危険な状況になるだろう。どう戦闘スタイルを形成するか。
元々この辺りにも思う所はあった。普通に考えてさ、今更なんだけど毒の能力ってのは属性魔法の一種の筈なんだ。
火、水、風、土の四大属性以外はかなりレアだけど、僕の【毒】は恐らく属するならそっちなんだ。だけど、僕はこの能力を特異魔法と認識している。
つまり本質は【毒】ではない。毒の操作がそこから派生された能力のうちの一つだとしたら、メインとなる【毒帝】という能力は何をもってそう断ずるのか。
先日、沈黙の狩人の人たちと行動を共にした時に力を奮ったあの瞬間から、ずっと問いかけていた。僕の特異魔法、毒帝。君の本当の姿はどんなものなんだい?
こういう認識をしている時点で何となく察しはついてしまうけどね。いるんでしょ? 僕の中に。
今回のそれで少しは君の事を知れれば良いな、とも思っているんだ。なかなか……この力を解放する機会は少ないからね。
「キュゥ!」
「何か感じた?」
「キュゥ……!」
ミールが少し嫌そうな顔をしながら僕の質問に頷いてくれた。気配は拾ったけど……嫌な気配だったのかな。
「案内できそう?」
「キュゥ!」
途中で多少の休憩はしてるとは言え、背中のレミリアも辛そうだ。このまま戦闘に入るのは気がひけるけど……呼吸を整えるくらいにしておこう。
魔力的には何の問題も無いんだ。
……!?
不意に、僕の魔力的な感覚に違和感を覚える。不吉な、嫌な気配を塊にしたような、そんな不気味な気配がこの先にいる。
こ、これか……。
思っていたより二回り、いやそれ以上の強さかもしれない……、討伐隊では無理だろう。ミールが顔を曇らせるのも分かる、このキメラはヤバイ。けれど、放置するともっと厄介な事になってしまう。やるしかない。
やるしかないけど、こいつを僕一人で何とかしないといけないのか……骨が折れるな。魔力……保つかな……。