第166話 自身の在り方
「一応、僕としましてはレミリアとオリヴィアさんは姉妹なので、可能であればいつか一緒に……と考えているのですが、如何でしょう?」
「ふむ、それは……かなり難しいな」
「そうです……か」
「理由は簡単だ、一個の影響力として強大な勇者の名にその身の安全が保証されているオリヴィアは、同時にその名に拘束される。そして本人の勇者への恩義の意も厚い。この状況でいつか共にとなるなら、……そうだな」
涙を零しながら姉の姿を眺めるレミリアの姿が余りにも心に刺さり、恐らく不可能だと分かっていながら無理な質問をしてしまった。
でもクリス様は顎に手を当てて何かを考えながら話をしてくれている。この人は一見無理そうな事を無理と断ずる前に、自身のそれを持って何とかしようとしてくれる。今回の件は軍の恩返しという程ではあるのだが……、気持ちとしてはこの人には恩が出来たと感じている程だ。
「不可能とまでは言い切れないな」
「えっ!? それはどういう……」
「なに、簡単な逆の発想さ。君たちが軍に入るか……或いはギルドに所属し、対魔王軍と戦う我ら軍人と共同戦線を張れる位置に来ればいい」
「……確かに」
その発想なら……不可能ではない。けれどそうなると自営業との両立が難しくなってしまう。あれは僕らの絆の様なもの、無くすつもりはない。
けれど、そうなるとこのままレミリアは姉と二度と会えない可能性すらある。何故なら勇者の付き人として魔王軍と戦うのなら、普通に魔物を討伐するそれより遥かに過酷な戦場になるだろう。
命の保証は……ない。
「別に無理にギルドに所属して冒険者になれと言っている訳ではない、ただ選択肢として最も安易に考えるなら、勿論それは最も過酷な道となる。だが……探せば抜け道もあるだろう」
「そう……ですね。成る程、今後最前線で戦う勇者の付き人となった姉、ここに接触する為に安易にいけば冒険者に、そうでないなら一計案じる必要がある……という事ですね」
「そういう事だ」
店を止めるつもりは毛頭ない、だがレミリアとの約束を違えるつもりもない。二兎を追えば末路は知れている。だがそれは雑にいけばそうなるだろう。
僕は……両立できる道を模索したい。
「お姉ちゃん……」
このレミリアの涙に触れて、見て見ぬ振りも忘れる事も僕には出来ないだろう。
そうなると……兼業冒険者か。
少なくとも今のままじゃダメだ、こんな能力一辺倒な状況ではどうせどこかで野垂れ死ぬのがオチだろう。
やるからには鍛え直す必要がある、そして軍には頼れない。
……マーベルさんに相談してみるか。