第163話 姉のその後②
ほんの一瞬、間が空いた。それはほんの一瞬だった筈なのに妙に重さを孕んだ時間だった様に思う。
そして……クリス様は答えた。
「申し訳ないが……無理だな」
「そう……ですか」
「あぁ、会うのは不可能だ。流石にそれがまかり通ったのなら勇者は普通の生活もトレーニングも、何もかもままならなくなってしまうからな」
多分……そうだろうとは思った。恐らく、軍に所属していたのなら或いは可能性はあったのかもしれない。けど……今の僕らは只の一般人。そんな奴にまで晒し者にされる謂れはないだろう。
「だが……そうだな、或いは……だぞ?」
「え?」
「これはあくまで独り言なのだが……うむ、出来ればあまり聞かないでくれ」
クリス様が少しだけイタズラめいた顔をして、口元に手を当てて……? 笑っている?
「例えば久しぶりにこの街に立ち寄った元軍の人という事で、折角だからガンディス様に挨拶をだな」
「えっと……挨拶? 僕みたいは末端兵が?」
「おかしい程でもない。いや、おかしいな。普段は不可能だ」
「ですよね、でもそうなると……」
「そう、そうすると普段は多忙なガンディス様が何故か偶然一瞬予定が空いており、その瞬間に事の関係者が挨拶をする事に成功したとする」
「え、えぇ……」
「そしてその過程で通った通路で、たまたま勇者ユリとその付き人を目撃する事は……あるかもしれないな」
「えっ!?」
物凄い出来の悪い三流劇だなこれは。でもクリス様は笑ってレミリアを見つめている。もしそれが許されるのなら……!
「何度も言ってすみません、本当に僕みたいな末端兵がそんな事をさせて貰って構わないのですか?」
「今回の件、正直言って軍はかなり救われている。もし君たちがいなければ今頃ラベルカーンの被害はどれほどの物になっていたか検討もつかない」
それは確かに同じ事を僕も考えた。けど……恩に着せる程の。
「危険の報告どころか、対処まで済ませてほぼ解決状態で報告、ただただこちらのミスをカバーしてくれた。この恩に報いるべきだと、ガンディス様も同意見だ」
「そうなんですね……では……その」
「ふむ」
「ガンディス様に挨拶を……させて頂いてよろしいですか?」
「もちろんだ、二人で来ると良い」
「わ、私も良いんですか!?」
「むしろ君だろう? 会いたいのは」
「……はい!」
「ただこれだけは許してくれ。話す事は出来ない、遠くから様子を伺い、ただ見守るだけのそれになるだろうが……良いな?」
「分かりました!」
遠くからでも様子が見れるならそれで……うん。無事でさえあればきっといつかちゃんと会える日も来るだろう、今日の所は……この話に甘えさせて貰おう。