第162話 姉のその後①
「まず、この話は重い話を含む上で、私自身オリヴィアとの付き合いは浅い。まだ彼女の事は殆ど何も分からない状況で、事の経緯くらいは把握している、といった程度だ。あまり期待しないでくれ」
「分かりました。レミリアも……良いね?」
「はい、……き、聞かせて下さい」
「よし、では聞いてくれ」
クリス様はその場で体制を整え、少し息を吐いてから話を始めた。目付きは鋭いが穏やかな表情をしている。悪い話じゃ……ない筈だ。
「まず、今回発覚したのは人体実験の事実と、その被験者への非人道的な行い。この人体実験の獣人生体サンプルとして用意されていたのがオリヴィアだ」
「え……」
「そ、そんな……」
う、分かってはいたけど……。
出てくる単語の一つ一つが……重い。
「安心してくれ、精神的に追い詰められてこそいたが、実際は何もされていない。ここは運が良かったとしか言えないが身体は無傷だ」
妙に言葉を強調しながら話すクリス様。
少し……不安が煽られる。
「……というと?」
「精神的にはかなり参っていたらしくてな、今はまだ普通には意思を疎通出来ないのだが……会話が出来ないとかそういうレベルではない」
「では……大丈夫なのでしょうか?」
「敢えてチープに表すなら異常に卑屈になっていると言ってもいい。奴隷が染み付いているとも言える。だが特に見切れた所がある訳でもない。恐らく、ユリの元で過ごしていたのなら、少しずつ良くなるだろう」
ひ、卑屈? え、それってその程度で済んだ……と考えていいって事だよね?
「あの……それはつまり無事だったと解釈してよろしいのでしょうか?」
「概ね間違いない。またどこかの商人に引き渡されるであろうその前に、ユリが引き取ったからな。それまでの実験待機時間は精神的にはかなり堪えたと思うが……結果的に不幸中の幸いだったと言えるだろう」
よ、良かった。もしかすると危うくまた所在不明になる所だったって事だよね。勇者が……助けてくれたって事?
「因みにそれは勇者が自発的にその様な行動に?」
「いや、私が世話役も必要だろうと後押しした形だ。だが……どうも始めから誰をその世話役にするかは決めていた節はあったな」
「あの……良いですか?」
レミリアはじっと話を聞き……そして遂に我慢しきれないかの様に……その心中に燻っていた言葉を吐き出した。いや、吐き出そうとしている。
「何だ? 何でも遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。えっと……その……姉に、会っても……いえ、一目見るだけでも良いのですが……会えますでしょうか?」