第160話 報酬問答
「あちらの部屋でお待ち頂ければ恐らく軍の方からアクションがあるはずです。少しお待ち頂けますか?」
「勿論です……あ」
「何か?」
「えっと……今のうちに護衛を担ってくれた小隊の方にお礼を済ませてよろしいですか?」
「問題ありません、では済みましたらお声がけ頂ければと思います」
これで放って置いても話が進む様にはなった、先にそっちを済ませよう。レミリアはソワソワするだろうけど少し僕の隣で待機だ。
「ニーナさん、ルルリさん、少し良いですか?」
「はいはーい、大丈夫だよー」
因みにダリアさんとカサビムさんは馬の返却を担当してくれているらしく、ここには居ない。まぁお別れは済ませたし今するのは報酬の話だし大丈夫だよね。
「さて、今回は本当にありがとうございました。かつて往復した事のある道だと侮っていたら今頃死んでいたと思います。つきましてはお礼を……」
「減額して下さい」
「えっ」
ルルリさんが……頭を下げて。あれ、減額? 増額じゃなくて?
「私たちは今回、ミッションを遂行しきれませんでした。何より、依頼主を参戦させるなどあってはならない事態」
「いえ、それはイレギュラーが……」
「だとしてもです!」
うぅ、普段温厚なルルリさんなのに何故か凄く威圧感を覚える。報酬は普通に払わせて貰うつもりだったんだけどな……。
「それにあの時私たちは……いえ、そうでなくては納得出来ません」
「もーいいじゃん、ルルリはいつも変なトコで頑固だよねー、前は説得されて折れてたけどさ」
「今回は話が違います、流石に最初の約束を果たせていない状態で最初の話通りの報酬はあり得ません」
頑なに姿勢を貫くルルリさん、目が怖い。
これは……折れるしかなさそうだ。
「分かりました、ではいくらなら納得出来ますか?」
「本来は無くても良いとすら思います」
いや、流石にそれは……。
「しかしそれだと恐らく次の関係が生まれなくなってしまいますので……今回は烏滸がましく半分の仕事を熟したと割り切って、半額で如何でしょうか?」
「……分かりました。ではそうしましょう」
「えぇ、半額? 今日はパーっといこうと思ってたのになー」
「ニーナさんは行くところがあるはずです」
「おっとそうだった!」
報酬のやり取りをサッと済ませて、これで終わったと思って顔を上げたらもうニーナさんは居なかった。忙しない人だなぁ。
そんなニーナさんの後を慌てて追いかけながらも、ギルド出口の所で振り返ってペコリとお辞儀していってくれたルルリさんが妙に印象的だったね。きっといつもあんな感じなのだろう。
さて、あとは軍の人との話をつけられれば……?
「で、例の客人はどちらに? 私も忙しい身でねすぐに案内を頼む」
「まさかクリス様が出向かれるとは……、それもこんなにも早くに」
「何、たまたま近くにいてね」
「それにしても……クリス様が?」
「こちらとしても懸念していた問題だったからな、それに今そっちに裂ける人員もなかった。礼は必要と考える上で話を聞かせて貰いたい。それで客人は?」
「成る程、えっと向こうの部屋に……あ、あちらにおられる方がそうです」
「ん? 彼が? となるとその隣にいるのが……成る程、確かに言われてみれば……」
「どうかしましたか?」
「いや何でもない」
受け付けの方を見るとそこには軍の甲冑に身を包んだ騎士が立っていた。遠目に見てもすぐに分かる、めちゃくちゃ強いなこの人。
左目は斜めに入った傷の上から眼帯が。傷は三本線、恐らく魔物傷。白銀の甲冑は使い込まれてはいても手入れが行き届いており、新品よりも遥かにその風格を強調する、デザイン的にもカッコいい。
ポニーテールに纏められたオレンジ色の髪と、スラッと高い身長が更にその存在を強調する。
そう、そこにいたのは女性の騎士だった。