第16話 令嬢、再び
「お邪魔しますわ」
「いらっしゃいませ、順番にお待……!?」
あれ? いつもお客様が来店した時はレミリアの元気な声が聞こえる筈なんだけど……珍しいな。僕は不振に思って診察室から少しだけ顔を出して覗いてみる。
「ななな何か御用でしょうか。あの、あああの、私は……」
「そんなに警戒しなくても噛み付いたりしませんわ」
あ、そう言う事か。あの時の令嬢が何故か来店、警戒態勢で臨んでいる最中って所かな。何の様なんだろ? あれだけやったのに懲りなかったとか? うーん、そうだとしたら厄介だなぁ。
「これ……受け取ってくださいまし」
「……え?」
んん? 令嬢の手からレミリアに手渡されたそれは……フルーツの盛り合わせ? えーっと、どういう風の吹き回しなのか。
「あの時は本当に申し訳ない事をしたと反省しておりますの。もうどこにも圧力はかけておりませんし、私もこの通り、反省しております」
ぺこりと、その場で頭を下げる令嬢……!? え? あのプライドの塊みたいな令嬢がレミリアに頭を下げた? うーん、外は雨か嵐なのかな?
「それと……今日は客としても参りましたの。診察はして頂けますの?」
「えっと、はい。順番にお待ちいただければ順次お声かけさせて頂きます……」
「分かりましたわ」
いつもの台詞だけど歯切れの悪いレミリア。気持ちは分かるんだけどね。一体何があったんだろ。うーん、不思議だ。
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「お次のお客様……あっ」
「私ですの?」
「……はい、どうぞ」
もうレミリアの反応の仕方ですぐに分かる。次に入ってくるのが例の令嬢だ。さて、もしかするとここまで猫を被って入ってきて、中で直接ナイフでブスリとか……あるの? あるのかな……。
「どうぞおかけ下さい」
「では失礼しますわ」
「手を……」
「どうぞ」
うーん、思いの外スムーズに進んでるな。ナイフはどのタイミングで出てくるんだろう……。
「それではお疲……」
「離しませんわ」
「えっ」
!? き、来た!?
「ま、まだですの」
「え?」
「まだ離しませんわ」
「あの……」
「いいえ、離しませんわ」
「ちょっと……」
「……まだですの」
「あ、あの……」
「あっ、も、もう……」
「あーもう分かりました、繋いだままトイレ前に行きますよ!」
「ハイ……ですの」
何故かちょっと頬を赤らめながら僕の手を離そうとしない令嬢さんを無理矢理スイートルームの前まで連れていくと、凄い勢いで中へ飛び込んで行った。
……一体何だったんだろう。