第158話 到着への準備
「あーもうクタクタだよー寝てるの辛いよー動きたいよー!」
「ニーナさんは怪我人なんですから、ダメですね」
「別に良いじゃん、院長さんは堅いなー。ほら、全然大丈……痛たたた……」
「あぁ……もう、何で動くんですか……」
「ぶー、だってさー。寝てるだけって辛いんだよ? 動けないとか息が出来ないくらい辛いよー」
馬車の荷台で横になりながらジタバタするニーナさん。この人が居なければ巨大なキメラに遭遇した時にもっと大変な事になっていただろう。
逆に、僕がもっと早く能力を使う決断をしていればこんな怪我をさせる事も無かった訳だけど……そうなるとニーナさんにも見られていた訳で。
何とも言い難いけど、まぁ結果これだから仕方ないとするしかないかな。全員無事は無事なんだし。
「ねールルリー、後どれくらいで着くのー」
「さっきも聞いたばかりじゃないですか……、後半日もすれば到着ですよ」
「まだ半日かー、橋渡るまではあっという間にだったのに、そこから長いよー」
「動けなくなると時間を意識してしまいますからね」
半日を長いと取るか、もうすぐだと取るのかは受取手次第だとは思うけど、僕としては後半日かという感じだ。
そろそろ沈黙の狩人のみんなに挨拶しておこうかな。何かこの人たち、任務が終わったらスッといなくなりそうだし。
ひとまず、ダリアさんかな。
馬車を降りて、今も先頭を歩いてくれているダリアさんの元へと向かう。
「今回の護衛、本当にありがとうございました。恐らくこのイレギュラー下でほぼ時間的な差もなく到着出来そうなのは皆様のお陰です」
隣に行った時点で僕の方に視線は向けてくれていたのだけれど、発言を受けてダリアさんは小さく首を振った。
そしてその後、少しだけ笑みを浮かべて頷いてくれた。
いいや、むしろ力になれなくてすまない。
こちらこそありがとう。
かな? 何か短い期間だったけど分かる様になってきたよ。
ポンと、僕の肩に手を置いたダリアさん。そして真剣な目をして、再び頷いた。
今度は多分、秘密は守る、って意思表示かな。
「ありがとう……ございます。また機会があれば、或いは帰りのタイミングが合えばよろしくお願いします」
その言葉に小さく笑みを浮かべ、ダリアさんは前を向いて歩き始めた。やっぱり良い人だね、ダリアさん。
さて、次は……カサビムさんか。
馬車を引いてくれているのでその隣に行って声をかけようとした時点で、カサビムさんは手を前に出して言葉を封じられる。
そして申し訳なさそうに頭を下げて、その後小さく頷いてくれた。
ダリアさんと同じか……。何もこの人のせいでこうなった訳じゃないのに。レンジャーとしてはパーティを危険に晒すのは極力避けないといけないポジションなので、今回の件に人一倍責任を感じているのかもしれない。
「こちらこそ、ありがとうございました」
あまり言うとしつこくなりそうなので、短く切り上げる事にした。言葉数は少ない……いや、無いけれど、二人とも優しくて良い人だよね。
出来れば帰りも是非ご一緒させて頂きたいな。