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第153話 いらっしゃいませ⑥ー②

「え、ナビリスさんが? しかし……」


 思わず口をついて溢れてしまう。無理だと……否定したくなってしまう。ですが……そんな私の思いとは裏腹に彼は予想もしない台詞を返してくるのです。


「その代わり」

「……え?」

「これから見る事は……他言無用で頼みます」


 醸し出す雰囲気が、何を、という台詞を封殺してしまう。何も……聞けません。


 言われるがままにダリアさんを馬車へと呼び戻し、そこから再び歩みを進め、遂に橋へとたどり着く。辿り着いたは良いのですが……絶体絶命の事態に変わりありません。そしてそこで、逆に馬車から降りて数歩だけ私たちから離れるナビリスさん。


 前にも、後ろにも、とんでもない数の強敵が。


 こんな状況を変えられる力を持つ人は極僅かで、私の大切な人も……その力を持ち、Xクラスの称号を持つ冒険者として活躍しています。


 彼の為そうとしている事は、そのレベルの話。常人が決して越えられないラインを越えて行ってしまう、一種の超越者の世界。


 そして彼は本当に……この無手の状況から何かするつもりの様です。分からない、何を持ってこれを突破出来るのかが全くわからない。


 不思議と恐怖は薄れ、逆にドキドキとした得も言えない感情が心に浸透していくのが分かりました。


 そして敵がいよいよ眼前に迫るタイミングで、ナビリスさんが纏う雰囲気を変え、その魔力を全開にするのです。


 するとその瞬間、場の空気が一変します。



「な、何なんですかこの雰囲気は……」



 思わず……言葉が溢れる。


 魔力が可視化? 黒紫色の渦となって場を飲み込み、暴風となってその場に吹き荒れる。


 なのにも関わらず、彼自身と馬車だけは綺麗に避け、ここが中心であるかの様な立ち位置。


 そしてそれ以外の場所には……身の毛もよだつ禍々しい魔力が状況を支配し、荒れ狂っています。


 明らかに空気が変わりました。なのに……何が起こっているのかサッパリ分からないのです。ただ無意識に……言葉が溢れる。



「な、何て魔力量……そ、それにこの力は……!」



 そこまで声を出した時点で気付いてしまう。


 ナビリスさんが……笑ってる?


 表情は暗くて見えないけれど……笑みを浮かべている様に見え、腰が……抜けてしまった。


 ち、力が入らない。


 ガクガクと……口が震える。


 仲間が状況に抗うべく戦ってくれている筈なのに……恐い。


 私たちを救うべく力を使ってくれている彼に向けて、無力な私がこんな事を言うのはおかしいというのは分かっています。


 分かっているのですが……。



 彼が味方である様に見えなかったのです。



 私の身体が、ここは危険だと全身で表現しています。


 けれど、それが故に動けない。


 目が……離せない。



毒帝(ポイズンマスター)が命ずる」



 ボソリと、深い声色が耳を打つ。


 聞こうとしなくても……耳に入ってくるのです。


 私は何も出来ないまま、ただ彼を……見つめていました。


 そして、言葉が紡がれる。



「滅せよ」



 発言と同時に四方八方から魔物たちの悲鳴が響き渡る。



「目を閉じて下さい!」



 思わず言葉の直後に反射的にレミリアさんの耳をすぐに塞ぐ。大きく意味はないでしょうけれど、これは……直に聞くにはあまりに……。


 耳が……痛い。


 心がえぐられる様な阿鼻絶叫。迫っていた敵たちは一様に身体を抑えながらその場でもがき苦しみ始める。


 頭を抑えるモノ。


 地面に這い蹲るモノ。


 天を仰ぎ、苦痛を訴えるモノ。


 その凡ゆる苦痛を乗せた叫びは耳を通り越して頭に直接響く様に私の意識を混濁させ、いっそ頭が割れてどうにかなってしまいそうな負の感情が占有する。


 そう、一言で表すなら。


 地獄。


 まるでその中心に自分がいるかの様な錯覚。


 呼吸が上手く出来ない。


 涙が溢れる。


 口からは唾液が止まらない。


 意識があるのかないのか……自分でも分からない。


 けれど。


 これだけは分かります。


 きっとあの渦に呑まれて、生き残れる魔物なんて……いる筈がない。


 ダメだ……自分が……保て……。




 ______





「だ、大丈夫ですか? 終わりましたけど……」

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