第151話 【禁忌の力】
「橋が見えて来ました!」
先程の激戦の後だと言うのに前を先行してくれるダリアさん。やはり僅かながら魔物が点在しているので先頭で露払いをしながら馬車を誘導してくれる。
と、ここで馬車がその歩みを止める。
「そ、そんな……」
振り返るダリアさん、そして険しい顔をするルルリさん。二人の視線の先のカサビムさんが……この道の、橋の先に後ろの敵と同じくらいの敵が待ち構えていると知らせてくれた。
橋を渡れば……真ん中で挟み撃ち。
ニーナさんは馬車で眠っている。命に別状はないが……復帰は無理だろう。そしてこの戦力では……ここは突破出来ない。
……出来ないか。出来ないのなら……仕方ないな。ここの全員の命と引き換えに拘る程の事ではない。ニーナさんに体を張らせて、自分だけは温存だなんて……そんな風にはありたくない。
それに他に手立ても無さそうだ。
「ナビリスさん、ど、どうしましょう……。一体どうすれば……」
「ご主人様……」
みんなが不安がっている。
もう……腹を括るしかない。
「仕方ない、僕がやろう」
「え、ナビリスさんが? しかし……」
「その代わり」
「……え?」
「これから見る事は……他言無用で頼みます」
「そ、それは一体どういう意味の……」
「このまま橋を渡りましょう。道は……僕に任せて下さい。ダリアさんも馬車へ」
「しかし……」
「任せて下さい」
「……分かりました。ダリアさんこちらにどうぞ」
僕の醸し出す雰囲気が、ルルリさんとカサビムさんを納得させる。そしてダリアさんも。
ゆっくりと、歩みを進める馬車。
遂に橋へと足をかけ、渡り始める。
だが後ろからは異形オークの群勢が押し寄せている。
前からも、同じ様な風貌のオークの群れが。
そんな中。
僕は静かに、心に語りかける。
久しぶりだね、毒帝。
普段はありがと、いつも助かってるよ。
でも今日はちょっと趣が違うんだ。
壊そう。
蝕もう。
腐らせ、奪い、果てるまで。
ただ命を刈り取る、暴虐の化身として。
今日はそんな君を、招こうと思う。
たまには……良いよね。
さぁ……おいで?
僕は、特異魔法の魔力を全開にした。
「な、何なんですかこの雰囲気は……」
魔力が黒紫色の渦となって場を飲み込んで行く。
吹き荒れる魔力風。
馬車を台風の目の様に避け、それ以外の場所に背筋の凍る様な禍々しい魔力が空間を支配する。
まるで……全てを呑み込む闇が、形を得たかの様に狂気のままに舞い踊る。
「な、何て魔力量……そ、それにこの力は……」
地面からも黒紫の空間が徐々に拡がる様に場を侵食していく。逃げ場などない。何故か……薄く笑みを浮かべてしまう。
空にいようが
地にいようが、
地中にいようが、関係ない。
全てを飲み込む毒の力が、空間を支配する。
「毒帝が命ずる」
ルルリさんやレミリアや、みんなが僕を見つめる中、僕はその鍵となる言葉を呟いた。
「滅せよ」