第15話 いらっしゃいませ③
気にくわない、気にくわない、気にくわない。
私の知らない所でみんなでコソコソと楽しんで。私はその流行に乗り遅れました。流行り物はいつだって最初が肝心、そこに乗り遅れた後発に何の価値もないのですから。なのでもしそれが勢いを持って今後も伸び得る内容なのであれば、今のうちに摘んでおかなければ致命的な差になってしまう。
乗り遅れた流行に便乗するなんてみっともない真似、とてもじゃありませんが出来ませんわ。
街の中のそれ程目立つ場所ですらない薄汚い、私が普段絶対近寄らないであろうそこに、件のお店はありました。
ここかと、場所さえ分かれば後はどことなしに圧力をかけていけば客足は減るでしょう。そうなれば存在も困難でアタフタする筈。そう考えていたのですけれど、どうも様子がおかしい。
密偵の話では普段より早く店を閉めて、普通に余裕のある生活を送っているのだとか。成る程、それなりに蓄えはあると言う事ですね。それならもっと精神的に追い込んでいくのが早いでしょう。
私はチンピラを唆してイタズラの範囲で最大限の事を店に対して行いました。本当はもっと手荒に行きたいのですが、いくら私でも罪のない人気店を無理矢理潰したとあっては沽券に関わりますの。
しかし店側の面々はそれを嬉々として受け入れ、前よりもより良い状態にされてしまう。これでは足りなかったのかと更なる精神的な追い込みを企みましたが、どうも一晩中店内に人の気配があると、結局手出しも出来なくて。
もう無能ばかりでイライラもつのって、私自らの手で店に終止符を打ってくれると意気込んで行きましたの。
それなのに、私はとんでもない辱めを受ける羽目に。
店主に触れられた瞬間からお腹の下の方がキュルキュルと騒がしく、すぐに変化は具体的な物へ。
そう、便意ですわ。
我慢できませんの。
もう兎に角トイレに行きたかった。
でも店主は手を離してくれなくて……脂汗をどれ程流したかわかりません。
連れて行った用心棒も自身の判断で動くには難しい状況にされた上で私の指示を遮られ身動きが取れず。
私は、恐怖のどん底へと突き落とされました。
そして我慢させられ、辱められ。
恥ずかしくて恥ずかしくて、全てをぶちまけて行った謝罪までも踏み躙られ。
私の人生史上最大にコケにされた挙句、解放されました。
そして私は体験したのです。
この世の物とは思えない開放感。
まるで全てがピンク色に見えるのではと錯覚する程の興奮と快感。
あぁ……これが、便通師なのですね。
私、一発でファンになってしまいました。
また……限界まで我慢させられて、トイレに連れていかれ、扉の目の前でそれでも我慢させられたい。
店主に……意地悪されたい。
まさかこんな素敵な店がこの街あっただなんて。
私、今後はこの店を全力で支持する所存ですわ。
勿論、罪滅ぼしの意味も……兼ねて。