第144話 森へ
「ダリア、前を二人にするよ? ルルリは後ろのカバーよろしくね!」
「分かりました!」
紫の髪のルルリさんがその長い髪を揺らしながら僕らのいる馬車の方へと移動してくる。少し良い匂いがするのは置いておこう。
「すみませんが、少し詰めて前の方にいて貰えますか?」
「分かりました」
馬車の運転はカサビムさんが、そして僕らのいる荷台の一番後ろに座ったその位置からから後方を見張るルルリさん。僕とレミリアは荷台の前の方に移動している。間も無く……森だ。
「さぁ入るよ! ここからは一応道はあるけど結構揺れるから気をつけて!」
「了解です」
ニーナさんからも声がかかる。前を先行するニーナさんとダリアさん。そして馬車の先頭にカサビムさん、そのすぐ後ろに僕とレミリア。馬車の一番後ろにルルリさん。
この並びで森に入るみたいだ。
「カサビム! ……了解!」
後ろを振り返ったニーナさんがカサビムさんからジェスチャーを受け取って前を見る。
「風圧掌!」
「うわっ!」
「ギギャァァァァァァァ」
掌を前に突き出したニーナさんは、その掌の向けられた前方に突風を巻き起こす。森の入り口に魔物が沢山いたらしい。こう言う時はダリアさんの様な近接タイプより、多数と戦えるタイプの属性魔法の方が遥かに有効だ。
でも……森の中だと使い辛いだろうな。
「レミリア、ミールを頼む」
「了解です!」
「キュゥ!」
僕の肩に乗っていたミールがレミリアの方へ移動する。そしてレミリアにミールが抱きかかえられたのを確認して、二人を抱きしめる。
「衝撃に備えてよ!」
「問題ありません!」
馬車が……森に突入した。
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「敵の数が多い! 気をつけて!」
「大丈夫です!」
森に入ってから、魔物の攻撃が始まった。日常こんな頻度で魔物と合う事なんてない生活をしていた分、少しだけ心臓の鼓動が早まっているのが分かる。
「そっちは大丈夫ですか?」
「やり過ごすのを前提として極力接触は避けてますので大丈夫です!」
後ろで荷台に迫る魔物がチョコチョコ現れるのだが、その度にルルリさんによって岩の板の様なものをお見舞いされている。
多分倒せている訳ではないのだろうけど、確かに追いつくのも無理そうだし、あれくらいなら省エネでやれるだろう。下手に戦うより長期的な戦略をとって必要最低限でやり過ごす、あの人も流石上手いね。
森にはいってからはキラーマンチェスやグランドワームといった虫みたいな奴らも頻繁に出現しはじめている。
レミリアには見せない様にしてるけど、右や左に避ける様に魔物の死体が転がっている。前を行く二人が守ってくれているのだろう。それにしても数が……多い。
「……!」
カサビムさんが僕にジェスチャーを送る。
えっ、分からないんですけど……あ。
右を警戒しろって事か。成る程、人手が足りないからサイドからの突発的なそれには僕が対応するらしい。
まぁそれくらいなら特に問題はないかな。